くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「明日に向って撃て!」

明日に向って撃て!

学生時代に見たアメリカンニューシネマの傑作。
果たして今見て、そのよさがわかるかと見に行きましたが、参りました。やはり名作は名作、うなってしまいます。

出だしは古いフィルムを上映するようにしながらのタイトルバック。その画面には全盛期のブッチとサンダンスキッドが映っています。そのセピア調の色彩が一気に私たちを物語の世界に引き込んでくれます。

かつて勢いのあったブッチ・キャシディポール・ニューマン)とサンダンス・キッドロバート・レッドフォード)の壁の穴ギャング団、今は時代の流れのなかかつての勢いもなく淡々とした仕事をこなす毎日。かつての部下にリーダーをのっとられようとするも持ち前の機転で立場を守るなどの日々になってきている。

要するのこの作品、古き良きアメリカから時代は変わりつつあることを描いているのであるとようやくわかりました。
馬に変わって登場する自転車の場面(あの有名な「雨にぬれても」場面ですね)、襲う列車の金庫が必要以上に堅牢にされていたりと、いまや一昔前の強盗などというのははやらないことを暗示していきます。

その時代の流れの変化に不安を隠せず、自分たちを執拗に追ってくる保安官たちをびくびくしながら逃げ回る主人公たち。その追っ手はある意味彼らの心にふつふつと湧き出してきている不安が生み出した幻影かもしれないのです。自分たちにとって不利なほうへ不利なほうへ事態が変わっていく、いや、変わっていくと思い込んでいるのかもしれません。

ボリビアについて、またあの執拗な保安官の後姿らしきものを見つけてびくびくするのですが、実はただのみ間違いかもしれない。そしてそんな彼らを見て、すでに時は終わったと感じたのかエッタ(キャサリン・ロス)は去っていきます。

この映画はまさにアメリカの時代が大きく動き始めた中で、もがくように生きようとする二人の男を通じて古きアメリカの姿を描いた物語なのです。

ラストシーン、思いもかけず大群に包囲され、蜂の巣にされるストップモーションで終わりますが、この悲劇のラストがアメリカンニューシネマであると同時に古きアメリカの終焉を描いたのでしょう。

美しいカメラの構図、バート・バカラックの軽快な音楽を効果的に使った場面転換の妙味、クローズアップの多用による心理描写とジョージ・ロイ・ヒル監督の脂の載りきった演出が随所に見られ、まさに名作という名にふさわしい傑作でした。いい映画ですね