くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「バッド・ルーテナント」

バッド・ルーテナント

ニコラス・ケイジは嫌いである。しかし監督がヴェルナー・ヘルツォークとなれば見に行かざるを得ない。そして、すごい映画に出会いました。まさに超怪作というべきでしょうか。すばらしい作品に出会ったのです。

画面が始まるといきなり水の中を蛇が泳いでいるアップ。カメラはその泳ぐ姿を凝視するように捉えます。もうこれだけでただの映画でなはないと予感が走ります。そして、ある鉄格子をくぐるとそこに人が水に浸かってもがいている。そこへ駆けつけるニコラス・ケイジ扮する主人公の刑事とその相棒。

物語はニコラス・ケイジ扮するテレンス刑事が薬とギャンブルにおぼれ、堕ちていく中で、ある移民の黒人家族が惨殺され、その犯人追及のために奔走する姿を重ねて描いていきます。ことあるごとにコカインを鼻から吸い込むテレンス刑事の姿、そして、時折登場する彼の幻覚とも思えるようなは虫類の姿、この映像表現の不気味さは現実とも幻ともにつかわない不気味さを生み出して、犯罪映画のむごたらしさと悪徳刑事の行動を助長して、重々しいほどに深い画面に仕上がっています。

とんでもないような行動で、平気で法を犯す主人公の刑事、しかしながら捜査や犯人逮捕の手腕は超一流というシーンもわずかに挿入して、娯楽性もきっちり描いていきます。しかし、時として張り込み現場にイグアナがいたり、交通事故の現場にワニがいたりとどこまでが現実なのか錯覚するようなシュールなシーンも随所に挟み込まれます。

徐々に薬に犯され、ギャンブルで借金を作り、父や母とも確執が生まれ、恋人をかばったために巨大な闇の組織にねらわれる羽目に陥っていく。まさに人生を転がり落ちていく姿を重厚な演出で見せるのですが、この物語の中心である冒頭の一家惨殺事件については決して横道にそれずに作品の中心を貫いていきます。そして、ラストシーン、ある意味あまりにも鮮やかな幕切れで終わらせ、「そんなはずはない」と私たちに思わせながら、さらりと肩すかしを食らわせる演出もまた心憎い。まるでスクリーンのむこうで監督がにんまりと笑っているような感覚にさえ陥ります。

二時間、全く目が離せない展開と映像、すばらしい一本に出会いました。

この作品にはオリジナル版があるそうですが、がらりと内容を変えているらしいのでヴェルナー・ヘルツォーク監督のオリジナル作品としても十分だと思います