くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「罪の天使たち」「マイレージ・マイライフ」

罪の天使たち

ロベール・ブレッソン長編第一作「罪の天使たち」をみる。
素晴らしかった。影を効果的に利用した画面づくりのすばらしさに感心してしまいました。

物語は、一人の女囚人に魂の救いをさしのべるべく自ら修道女となり、献身的に振る舞う一人の女性の姿を描いています。
出だし、修道院の院長と副院長が女囚人を修道院に迎えるべくある監獄を訪れます。外へでるとその女に命が危険が迫るにもかかわらず、院長たちだけで連れ出し車に乗せるまでが霧に煙る町並みに光る街灯のみという、まるでフィルムノワールのごとき映像にまず圧倒されます。

続いて、主演のアンヌ・マリー(ルネ・フォール)が修道女となるために訪ねてきます。ここからがこの作品のテーマでしょうか?このアンヌ・マリーは神の導きにより女囚人テレーズを助けるべく修道女になるため導かれたというのです。白と黒の修道女の服装に写る木々の枝の影や階段の欄干の手すりの影が作り出す牢獄の格子のイメージなど、映像的にも見事なシーンが続きます。

プロの俳優を使わず、修道院と監獄の二つの室内以外はほとんど外にカメラがでていかない閉塞感と、厳しい規律による束縛感が重苦しいストーリー展開をリアルに伝えてくる。しかも、モノクロームのカメラと構図が本当に美しく、ただならぬ傑作のムードを漂わせるからすごい。

神聖な場所にいつの間にかくすぶる確執と陰謀の中で、打ちのめされながらも信じることに一途に生き、やがて死をもって、自ら求める魂の救済につながるラストシーンは圧倒されます。いい映画でした。うまくかけないのが残念ですが、すばらしかった。


もう一本が「マイレージ・マイライフ」
「JUNO」のジェイソン・ライトマン作品でアカデミー賞ノミネート作品です。
出だしから、見事なタッチの展開で引き込まれてしまいます。主人公ライアン(ジョージ・クルーニー)のプロフェッショナルな仕事の遂行場面に続いて、相棒のナタリー(アナ・ケンドリック)との見事なやりとり、特にこのアナのせりふ回し、細かい顔の表情や身のこなしの演技が抜群にすばらしく、彼女に引き込まれてしまいます。さらに好対照に大人の女アレックス(ヴェラ・ファーミガ)もまた、抜群の魅力でストーリーを引っ張ってくれるからもスクリーンから目が離せませんでした。

ところが、そうした魅力的な展開にのめり込んでいくのですが、物語の転換点として登場するライアンの妹の結婚式、そしてそれに続くライアンとアレックスの仲むつまじいデートシーン、あたりから、かすかに息切れが見えてくるのが残念。このあたりで、完全にナタリーの存在を消し去ってしまったのはそれまで圧倒的な存在感であったために、妙に気が抜けてしまいました。

やがて、今までの自分の生き方に疑問を持った主人公が他人の心を受け入れる決心をし、そして、自分に素直になってアレックスの元へ走るのですが、みている私たちに投げかけるテーマをここに集約したい気持ちはわかりますが、あまりに前半でそれぞれの女性を魅力的に描きすぎたため、ギャップが激しすぎたのでしょう、迫力がなくなってしまっているのです。

さらに続くナタリーのエピソードと、ラストのエピローグで最初のテンポが持ち直すのですが、クライマックスで気を抜かれてしまって生きてこなかった。本当に残念な映画に仕上がっています。