くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「シャッターアイランド」「第9地区」

シャッターアイランド

マーティン・スコセッシの映像ミステリー「シャッターアイランド」をみる。
宣伝フィルムなどから、この謎が解けますか?的な作品ということだったので、出だしから、しっかりと画面に釘付けでみた。
さすがに、映像派マーティン・スコセッシ監督、独特のカメラアングルや驚かせるようなカメラワークを駆使して、美学に近い映像表現で、ミステリアスな展開を演出していきます。

背景にわざとセット撮影を施したり、おそらく一遍で撮影したかのシーンを細かくカットしてつないで、緊迫したシーンを作り出したり、超常的な嵐のシーンなどの自然の驚異を効果的に物語に導入したり、島を囲む崖を必要以上に不気味に見せたりと、ある意味、ヒッチコックが多用したような、見えるものすべてを物語の効果に利用するという方針を徹底しています。

物語は犯罪者を収容する精神病院の話なので、それだけでも不気味ですが、時代を1954年に設定、さらに主人公テディ(レオナルド・ディカプリオ)が再三見る悪夢、そして幻覚、幻想、が繰り返され、次第に現実と空想の境目が壊れていく展開は見事です。二転三転というストーリー構成にせずに、徐々に核心に触れていきながらはぐらかしていく展開が絶妙で、前述のテクニカルな映像などと組み合わされ、真相へ向かうクライマックスが、ぐっと感情に直接訴えかけてきます。

ラストシーンのテディのせりふは原作にないものらしいですが、この映画をただのミステリーで終わらせたくないというスタッフの練りに練ったエンディングで、このせりふだけで一級品に仕上がった気がします。


もう一本が話題の「第9地区」
突然、巨大宇宙船が南アフリカヨハネスブルグ上空に現れたという設定から、物語が始まります。そして、その大事件から現代までをニュース映像風の手持ちカメラの多用と関係者のインタビューによってドキュメンタリー調でこの作品の背景を語っていく。
まるでスラム街と化したエイリアン地区の様相は、あたかも貧困と差別でさげすまれた被差別民族の町を彷彿とさせ、エイリアンというと高度な文明による人類以上の尊厳のある存在として描かれてきた過去のSF映画とは全く違う姿が、丁寧に描写されていく。

ドキュメントタッチのこの展開はある意味、最近のはやりのような気がしないでもないのですが、なんの、物語が主人公ヴィカスがエイリアンの住む第9地区で不足の事故に見舞われたあたりからこの映画のオリジナリティあふれる映像と、ストーリー展開が一気に吹き出します。

このあたりから手に持った銃の先端につけたカメラによる兵士の移動シーンや、まるでゲーム感覚のような派手な破壊シーン、殺戮シーンに、スクリーンから目を離せないオリジナリティに驚愕していくのです。ぶつけてくるようなぎらぎらしたデビュー間もない監督らしい荒削りながらチャレンジ精神旺盛な画面が次々と展開します。

物語の展開も、冒頭のドキュメントタッチの背景説明から、事件の発端、そして、人類のエイリアンに対する執拗な差別攻撃、さらに、エイリアンの親子の登場による感情への訴え、貴重なエネルギー源を取り返さんとするクライマックスのさもSF的な発想とアクション映画の醍醐味を見せつけるシーン、そして迎えるミステリアスなエンディングと、感動のエピソード。物語構成の見事さは一級品であり、その点ではこの作品の完成度の高さは高い。

しかしながら、宇宙船が南アフリカ共和国上空に現れていること、執拗なエイリアンに対する人類の非人道的行動、ゲーム感覚のようなグロテスクな殺戮シーンの数々など、明らかに政治的メッセージが含まれているように見える適当さがまさにB級娯楽映画のてんこ盛りで、それがこの映画の醍醐味でもあります。
映画としての娯楽性も含めた傑作と呼べる映画だったかもしれない。