くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「月に囚われた男」「忍びの者」

月に囚われた男

月に囚われた男
デビッド・ボウイの息子ダンカン・ジョーンズが監督をし、様々な賞を受賞した話題作、しかも宣伝フィルムの頃からなかなかおもしろそうな内容だったので、楽しみにして見に行きました。

タイトルバックからして、様々な機材や壁などに描いたかのようなクレジットが続きます。さすがにCM監督出身者らしい懲りようでスタート。
地球の燃料が枯渇していった模様が解説され、それを保管すべく月のヘリウム3を採掘するための企業が一人の男を月に派遣しているという説明が続きます。よく考えると、ここだけで、人間一人だけを赴任させるなんてちょっとおかしいと気がつくべきなのですが、それがこの物語の背景。しかもその赴任期限が後二週間に迫っている。

主人公サムの相手はほぼ人間に近い知能を持つガーティと呼ばれるコンピューター。にこにこマークが会話の度に表情が変わるというユニークな機械。しかしながら、ロボットアームが中心の形であるのはなんともやぼったい。外にでるときの月面車や掘削機なども今時のSFにない無骨な形である。ダンカン・ジョーンズが意図したというように、リアリティと70年、80年代のSF映画をモチーフにしただけあって、そこかしこに当時のSF映画の景色が見られます。

コンピューターも明らかに「2001年宇宙の旅」のHALであるし、「サイレント・ランニング」よろしく植物栽培などをしょぼいながらしているし、幻が現れるあたりは「惑星ソラリス」である。

物語は後二週間に迫ったにもかかわらず、どこかおかしいことに気がつき始める主人公の姿を映すミステリーの様相もかねている。そして、その謎がそれとなくそして次第にはっきりと見えてきて、この作品のテーマが具体化してくるのですが、
<ここよりネタバレ>
クローンにより三年ごとに繰り返される地球への帰還(実は旧ボディの処分)と新ボディの誕生、この謎に、クローン本人が気づき、さらに新しいクローンとの共同生活になってしまうあたりから、本体企業の陰謀を暴き、正さんとする主人公の奮闘がクライマックスである。しかも、妙にこの主人公に同情するコンピューターが何とも人間らしくてユニーク。

ミステリーと古き良きSF映画へのオマージュを詰め込んだ、小品ながらちょっとした秀作であった。低予算でここまで作れた功績は認められる。
ただ、ネタをクローンにするというのはちょっと安易であるし、ラストシーン地球に戻るポッドのシーンの背景で企業を告発するというナレーションが流れるあたりちょっと俗っぽくなってしまった感がしました。

最初から最後まで小気味よいSF映画の秀作として仕上げきってほしかったようにも思いますね。


「忍びの者」
市川雷蔵作品、山本薩夫監督作品の忍者映画である。

とにかく、徹底的な硬派の物語で、もちろん活劇調ではあるが、非常にリアリティあふれる演出がなされている。手裏剣を使う仕草にせよ、百地城での仕掛け扉や隠し部屋の場面など、巧妙に忍者たちが出入りしたり、隠れたりするシーンが現実味のある画面づくりになっている。このあたりさすがに山本薩夫監督ならではである。

出だしは合戦の死骸が広がるところから物語が始まる。草の息吹、風の音が聞こえるように縫うようにカメラが追っていき、そこへ主人公の姿が登場、ここからすでに忍術戦の様相がくっきりと伺える演出が見る人を引き込んでくれます。
あとはもう、主人公五右衛門(市川雷蔵)の属する忍者村、そして時の勢力織田信長の権勢がえがかれ、忍者対信長というストーリーが進んでいく。

一つ一つのシーンがさすがに重厚で、両脇に草が生える溝のような道を駆け抜けたり、山間を駆け抜けたりと、スピーディな中に非常にハイテンポかつ爽快な忍者活劇が展開し、わくわくどきどきの物語である。
信長など少々ステロタイプ化しすぎている感じがしないでもないが、劇画調の画面と割り切ればあれはあれでよかったと思う。

忍者同士の勢力争いが術某渦巻く展開のおもしろさに拍車をかけ、伊藤雄之助扮する百地三太夫が何ともくせ者感がにじみ出ていて秀逸、さらに五右衛門の周りを囲む俳優陣の何とも個性的な顔ぶれがこの映画の奥の深さを見事に映し出している。
単調な活劇に終始せず、しっかりと地に足がついたような娯楽作品に仕上げた山本薩夫監督の手腕は見事でした。

おもしろい。わくわくする。それをそのまま退官できる見事な時代劇だったと思います