くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「運命のボタン」

運命のボタン

「激突!」「ある日どこかで」「地球最後の男」などの原作、脚本であまりにも有名なリチャード・マシスンの短編小説を改編した作品である。
もう少し娯楽色のある気楽な映画だと思っていたのが、案外シリアスかつ哲学的な物語だったので、最初はとまどってしまった。

まずクレジットと一緒に一人の男が落雷にあって一時は死亡したと思われたのが蘇生し、いずこへともなく消えたという出来事がナレーションされる。

突然、自宅の前に届けられた小包。中には奇妙なボタンのある箱のようなものが入っていて、夕方5時にアーリントン・スチュワードという男が説明にいくというメモが入っている。
まさにミステリーゾーンのような導入部である。

さて現れた男はあごの半分がむごたらしくえぐられているものの、紳士的な身なりの良い老人。このあたりはスティーブン・キングの小説にでも登場してきそうな人物である。

説明を受けた主人公ノーマ(キャメロン・ディアズ)はこのボタンを押すか押さないかの究極の選択を迫られることになる。ボタンを押せば100万ドル手にはいるが、見知らぬ人物一人が死ぬ。押さなければこの試みを別の人物に届けることになる。
こうして客観的に考えれば、たいてい、私は押さないと答えるだろうが、現実はどうだろう?とこの映画は問いかけてくるのである。

結局、押さなければストーリーは進まないのであるからノーマと夫アーサーは”押す”という選択をする。

ボタンを押さざるを得ない境遇に追いつめられている夫婦の現在を見せる教室でのノーマのエピソードや職場でのアーサーの出来事などが、畳みかけるように本編へつながってこない。そしてそのまま、ボタンを押すという本題へ突入したのは明らかに脚本が弱いといわざるを得ませんね。

哲学的なテーマをぶつけてくる割に、妙に未知の生命体の存在をにおわせ、人類を試しているというようなニュアンスのせりふも登場する。このあたりのテーマをミステリアスに、そしてサスペンスフルに盛り上げながらストーリーテリングしていけばいいのだが、今ひとつ、その手法に無理がある。
突然、場面がジャンプしたように転換したり、意外と出来事の範囲が狭かったり、政府の機関がこの計画に関わっているにもかかわらず、地方の一都市のごとき展開に終始している。

主人公の周りに存在する”従業員”と呼ばれるアーリントンの仲間たちの不気味さも、危機迫るものが感じられないし、存在感がほとんどないので何のための登場か不明な部分も多々ある。

元々の短編を長編化する際に無理があったか、作品の内容を十分理解しきれずに撮影が進んだか、今ひとつ深みにかける薄っぺらなストーリーで最後まで走ってしまったのは残念。
結局、衝撃的なエンディングも私たちになんのテーマも訴えかけてこない。いい作品にもなれたかもしれないが、凡作にとどまったのがもったいない一本でした。