くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「春との旅」「ボックス!」

春との旅

春との旅
非常にスローテンポな映画である。しかも往年の名優たちが集い、しかもすでに老年になって一昔前の老人を演じている。すべてにおいて一時代ずれているような印象の展開であるが、それはそれで落ち着いた演出が施されていて、音楽の効果が抜群でしかも見事な脚本でかなりのレベルの作品でした。

出だしからいきなり足を引きずった仲代達矢が飛び出してくる、その後を孫の春ちゃんが真っ赤な服装で追いかけてくるところから始まる。北部の片田舎の漁村であろうか、寂しい景色が周りを囲んでいる。どうやら春ちゃんの母はこの中井忠男の一人娘で、先日自殺したらしいことが伺える。
この作品の良さは、人間関係、物語の展開をさりげなくせりふの中に織り込んだ脚本のできばえのすばらしさである。そして冒頭にも書いたが、タイトルバックのバイオリンのような弦楽器による静かな曲や、ピアノ曲など見事な音楽センスもすばらしい。

東京へ行くという春にたいし、一人残される忠男が自分の兄弟のところへ居候にいこうと春に連れて行ってもらおうというのがストーリーである。
行く先々で兄弟が、様々な人生を歩み、様々なリアクションで彼らを迎える。しかし、そこには肉親という血のつながりの絆よりも厳しい現実、そして今までの過去によるわだかまりからどうにもならない溝があることを知る。

この淡々とした物語が、ワンショット非常に長いカメラワークで見せてくるからスローテンポに見える。しかしこれだけのロングなショットをワンカットで見せるにはこれだけの名優がそろわないと無理だろう。
仲代達矢淡島千景大滝秀治菅井きんなどなど誰をとっても主役のはれる人ばかりなのだ。

非常に流れの緩い作品なので、みているときは時代錯誤の固まりのようでついていけないように思えるが、見終わると、この映画の良さがじわりと伝わる。
ラストシーンの落としどころは結局ああなるのだろうとは思えるものの、それなりのいい映画だったと思う


「ボックス!」
これはいい映画だった。先に見た「春との旅」とうってかわってハイテンポな、若者映画である。

出だし、走る電車の中でうさんくさい若者が騒いでいる。高校の先生輝子と高校生の木樽(高良健吾)が意見をするも相手にされずピンチに。そこへ市原隼人扮する鏑矢が登場し一気に片づけるが、電車の照明を落とし外からすれ違う電車とのカットで演出したショットが見事である。
こうして物語は始まる。

天才的な才能でボクシングをする鏑矢がたまたま助けた高校生が幼なじみ木樽で、二人は同じ高校。そこで木樽もボクシングを勧められてボクシング部に入り、そこへ谷村美月扮する智子(谷村美月が太り気味になった)も絡んできての青春ドラマへと進んでいく。
大阪を舞台にしているので、大阪弁が心地よく、さりげなく画面に登場するボクシング部で飼っている犬や壁にはうカタツムリ、ウサギ小屋などのシーンが何ともコミカルで楽しい。

原作が小説なので、それなりのストーリーを二時間あまりに短縮しているため少々ストーリーが飛ぶが、そこは暗転して「何月・・」と繰り返すことで時間の流れを表現してカバーしている。
時折フラッシュバックして描かれる二人の少年時代がスパイスになるし、鏑矢の家のお好み焼き屋がこてこての大阪でいい味である。

再三に挿入されるボクシングシーンのカメラが秀逸で、リングの外から大きくクレーンでよったり、クローズアップ、デジタル処理、スローなどテクニカルを駆使した演出がほかのコミカルなシーンと心地よくマッチングするので、ストーリー展開にわくわくさせるリズム感を呼び起こしてくれます。

二人の友情とライバル校の天才ボクサーとの戦いがメインのストーリーですが、ありきたりの編集でストレートに見せていかない懲りようがなかなかのもので李闘士男監督の力量を伺わせてくれます。
クライマックスも分かり切ってるとはいえ、ワンテンポおいて二人の大人になった姿を映し、再度フラッシュバックさせて試合の結末へと導くエンディングもうならせます。

青春映画の秀作といってもいい最高の映画でした