「真田風雲録」
全く、時代考証などそっちのけの痛快娯楽時代劇でした。
なんせ、隕石が落ちてきてその放射能を浴びて特殊な能力を持った赤ん坊が後の猿飛佐助というのだから笑ってしまう。しかも歌は歌うし、ギターはでてくるし、淀君はその辺の口うるさい母親と一緒だし、ダンスはするしとなんでもあり。その吹っ切れた展開は正直うんざりするほど退屈でもあるのですが、あれはあれで映画産業衰退期の必死の作品なのだろうと納得もしたりする。
関ヶ原の戦場から物語が始まります。悲惨な戦いの場をカメラが横にずーっと流れていく。そこへ数人の少年たち、後の真田幸村の子分になる人物という設定だが、なんともとってつけたような人物たちである。そこへ絡んでくる幼き日の猿飛佐助。
時は移って彼らが大人になり、時代は徳川、しかし豊臣勢力が盛り返さんと画策する中、大阪の陣をクライマックスにストーリーが展開していく。
史実はある程度守るものの、登場人物たちの行動やせりふは完全にコメディである。シリアスが笑いに変わり、敵も味方もどうでもいい展開。よくもまぁここまでお茶らけ映画を作ったものだと感心してしまう。しかし、物語が終わった後、一人去っていく猿飛佐助(中村錦之助)の姿が妙にもの悲しいのはなぜだろう。
「十三人の刺客」
今までどうにも縁のなかった時代劇の傑作をようやくみることができました。やはり噂通りの名作ですね。
井川徳道の見事な美術セットと、様式美を踏襲した工藤栄一監督のカメラアングルの見事さ、さらにはその様式美の中で時にクローズアップ、時に手持ちカメラ、時に大きく俯瞰でとるショットなどの豪快なカメラワークにうならされるものがあります。
しかも物語のまさにサスペンス色あふれる時代劇アクションでおもしろい上に、登場人物がなんともそれぞれ個性的で魅力がある。芸術と娯楽がコラボレートした一級のエンターテインメントでした。
見事な明石藩江戸屋敷土井大炊頭の門前のセットが真正面にとらえられそこで明石藩江戸家老間宮図書が割腹自殺するところから始まります。この出だしからみてもこの映画は凡作ではないと直感しました。
そこから、カメラを地面すれすれにして見上げた構図や、見事なセットを効果的に配したアングルで、ストーリーが展開していきます。
割腹自殺の原因は、時の明石藩主松平左兵衛斉韶の暴君ぶりを愁いてのことで、その意志をくんだ老中土井大炊頭(丹波哲朗)が目付役島田新左衛門(片岡千恵蔵)を呼んで斉昭の暗殺をすることを命じるところから本編に入ります。
新左衛門が刺客としての武士を選ぶ下りと、いかにして斉昭を暗殺するかという企ての経緯のおもしろさ、対する斉昭側の側近で非常に頭の切れる鬼頭半兵衛との頭脳戦がストーリーの中心となって、サスペンスアクション満載のおもしろさがどんどん続いていきます。
いかにして暗殺をするのか、いかにしてそれを阻止するのか、いかにしてその裏をかくのかという見せ場満載の展開で、しかも時にびっくりするようなカメラ演出を見せて、単なる様式美だけの時代劇にこだわらない自由な画面づくりが見事な映画的なアクションのリズムを生み出しています。
剣の達人平山九十郎に扮した西村晃がなんとも見事で、郎党を率いる片岡千恵蔵の存在感に引けをとらず、一方重鎮としてメンバーに加わる嵐寛寿郎の貫禄が作品の引き締め、一方の鬼頭半兵衛に扮する内田良平もなかなかどうして、気に入らない藩主なれども自らの職務を全うすべく、暗殺を防がんと知略を巡らす武士の姿を見事に演じていて作品に厚みを与えています。
細かいせりふの所々にも念の入った練り込まれた脚本が飽きさせない娯楽性を生み出しています。
一つの宿場を対決の場に借り取り大決戦を迎えるクライマックスは見事としかいいようがありませんでした。
これぞ工藤栄一娯楽時代劇の傑作でしょうね。