くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「身分証明書」「不戦勝」「バリエラ」

身分証明書

「身分証明書」
イエジー・スコルモフスキ監督の長編第一作。主人公アンジェイが兵役につくまでの数時間を描いた作品であるが、その映像の美しさ、カメラワークの美しさに目を見張ってしまう。まるで手足のようにカメラを動かして演出しているという感覚なのである。こういう動きを始めて体験しました。

真っ暗なところで主人公がマッチを擦る。その光にあわせて主人公の顔が見え隠れします。続いて、外に出た主人公がアパートの管理人とのやり取りが影だけで移されます。その後、夜の街に出た主人公、壁に映る巨大な人の影、あたかも「第三の男」さえ思い出させるようで、ちょっと異なる見事な導入部なのです。

そして、懲役検査の場面、学校を放校になったことなどが語られ、アンジェイの周りの友人たち、同棲している女性とのやり取りが縦横無尽とも言うべき見事なカメラワークで語られていくさまはすばらしいです。さらに、背後のジャズの効果もさりげなく抜群。見ごたえのある一本でした


「不戦勝」
いきなり女性の顔、そして次の瞬間叫び声とともに消え、電車の急ブレーキの音。ショッキングな導入部から、そこへ居合わせた主人公、そして同時に一人の女性テレサと出会う。その女性はこれから向上の幹部になるべくここへ来たのだという。それにつられて一緒に工場へ。

物語は「身分証明書」から6年後のアンジェイの姿で、すでに兵役も終えている。
工場で模様されるボクシング試合に出ることになるというのがモン後あたりの本筋。
カメラワークはさらに洗練され、しかも長回しによるすばらしい流麗な映像が展開するさまは前作以上である。

スクリーンが天を向いたり、でんぐり返ったりするというまさに、体の一部のごときカメラワーク、そして退屈さを感じない長回しのワンシーンのすばらしさは「アンナと過ごした4日間」でもいかんなく発揮されていますが、この監督の才能は並みのものではないと納得します。

たわいのないストーリーですが、映像を楽しむにはこの上ないすばらしさでした。


「バリエラ」
スコリモフスキ監督の名を世界にとどろかせたという作品。いきなり両手を電気コードで後ろ手に縛られた男が写る。その男が前のめりにドンと落ちる。それが繰り返されるショットから映画は始まります。
医学校生の友人のゲームで、四年間にみんなでためた小遣いを誰が手にするかを競っているのです。

そして主人公がそのお金を持って、スーツケースを抱えて社会へ出るところからストーリーが展開します。
そして町の路面電車で知り合った一人の女性とのラブストーリーのような物語が進んでいくのですが、この作品はかなりシュールなショットがふんだんに登場します。

突然群集が移動したり、ろうそくが幻想的に画面に登場したり、突然バンという音でシーンが展開したりと、音、映像がめくるめく交錯を繰り返しながら超現実的ともいえる物語が進んでいきます。
主人公は翌日に結婚するというせりふが何度も出てきますが、それもエンディングで取り立てて生きてくるわけでもないのですが、出会った女性と離れたり出会ったりというストーリーなので、ある意味無意味でもないのかもしれません。

ラスト、主人公の男性とはぐれてしまった女性が、自ら運転する路面電車の前に男性が飛びつき、そのまま電車の前に倒れて、そこへ女性が「風邪を引くわよ」と叫んで終わる。
完全な超感覚の感性のみに訴える作品ですが、終わってから思い返すと二人の物語がぼんやりと浮かんでくる面白さを堪能できました。