くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ロストクライム -閃光-」

ロストクライム -閃光

ベストセラー小説の映画化は難しい。特にミステリーはすでに真相を知る人も引き込む必要があるからだ。
さて、この「三億円事件」をテーマにした警察ミステリーなのですが、一歩手前で人間ドラマを描ききれなかった作品という印象でした。
押しも押されぬ日本映画界の名優たちをそろえ、骨太のドラマをしっかりと描いていこうとする姿勢はひしひしと伝わるのですが、胸に迫る迫力がない。もしかしたら原作はもっと胸にしみいるものがあるのかもしれないと予感させるほどムードは満点のストーリー展開でした。

いきなりタイトル、そしてぐるぐる回る閃光のようなショットから浮浪者がたき火の缶を回すシーンへ、そしてホームレスが集まるところへこの映画のキーパーソンである夏八木勲扮する緒方じいさんが登場する。こうして、至る所にちょっとこった演出のシーンがちりばめられているので、これはと思うのですが、どうも長続きしなかったというのが印象です。

ストーリー自体は三億円事件の真犯人は実は学生運動の仲間たちで、大人になってからそれぞれ平凡に暮らしていたものの、彼らに恨みを抱く原田真治扮する宮本に殺されていくというもので、これといって奇抜な展開も、あっといわせるミステリアスなおもしろさもない。ひたすら、当時の事件を隠蔽する原因が、犯人の中に警察上層部の娘がいたための警察の工作であったという真相を知る主人公滝口(奥田瑛二)と片桐(渡辺大)が現代の殺人事件に迫っていく。

三億円事件の真相、その事件の裏で起こった悲劇、さらに警察の隠蔽工作などが絡んできて、それぞれに一癖もふた癖もある人間ドラマが潜んでいるのだが、今ひとつ切実に伝わらない。特に奥田瑛二の演技がどうも今回はやたらくさくてみていられないし、渡辺大にはまだまだ作品を引っ張る迫力もない。久しぶりに出演の原田真治も精彩に欠ける。引退した警察の重鎮役の原田芳雄もいまいち生きていない。伊藤俊也監督の俳優に対する演出がよくないのか、脚本が原作のテーマをすべて詰め込みすぎたためにどっちつかずになってしまったのか、いずれにせよ、原作のイメージはつかめるのですが、映画としては今ひとつでした