くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「川の底からこんにちは」「ザ・ロード」

川の底からこんにちは

川の底からこんにちは
今期待の満島ひかり主演の作品を見てきました。
とにかく勇気がわいてきます。人間なんて、所詮中の下じゃないですか?開き直って、自分に正直になって、思いっきりやってみたらいいんです。そんな力がぐんぐんわいてくる。コミカルな中に荒削りな展開、そこかさめた現代風刺、そして、どこか人間味のあるほんのりとした暖かさが漂う。なかなか楽しめる一本でした。

出だしはなぜか腸内洗浄中の佐和子の姿。いつも?下ネタから入る満島ひかり
東京にでて五年目の主人公佐和子(満島ひかり)、派遣社員OLで、正社員の男どもから適当に扱われ、同僚の女社員と日々つまらない現実を「仕方ないね」とぼやいている。五人目の男も子持ちの頼りない中年のバツイチ。そんな彼女の人生観はとにかく、自分はたいした人間ではないのだから、たいした毎日、たいした男でなくても仕方ないと納得している。その冷めた視線がなんともいえないムードを醸し出して映画が始まる。

ところが、そこへ田舎の父が余命わずかだから、父の会社であるシジミ工場の後を継いでくれという叔父からので連絡。
当然、なるようになるさと田舎に帰る決心をしたところ、うまい話と乗ってくるバツイチのつまらない彼氏。この健一(遠藤雅)がなんともいえないほど小憎たらしくていけ好かないキャラクターである。その上、連れ子の加代子もぶすっとしてどこかクール。

田舎に戻り、実家の糞尿を川に撒く(つまりちゃぽん式なのだ)。
工場に働くおばちゃんたちはみんな一癖もふたふた癖もある強者揃い。娘が帰ってきたところで相手にしない。この疎外感がまたこの映画の魅力なのです。
やがて、いつも糞尿を撒いていた何もなかった川だが、物語の転換点で花が咲いていることに気が付き、それを父の病室へ持っていくあたりから一気に終盤の物語へなだれ込んでいく。
どうせ中の下なら中の下で開き直って工場を盛り返してやれと、元々あった古くさい会社の歌を脳天気でコミカルな曲へ作り直す。この歌がとにかくたのしくて、是非CDがほしくなるほどなのだ。

そして、会社は大繁盛、そこに絡んでいたいろんなエピソードが一気にまとまってきて、エンディングにつながるラストはほんのりと暖かくなってきます。
当然、父の死でラストを迎えるのですが、佐和子の幼なじみと東京へ出ていった健一も戻ってくるし、従業員のおばさんの中の一人の夫で女子大生と東京へ行っていた旦那も帰ってきてすべて丸く収まってのハッピーエンド。

人間、所詮誰だって中の下なんだから、気取ったり、取り繕ったり、良い格好などしたりせず、素直に開き直ってやってみたらなんだってできるもんさとにっこり勇気をもらってしまう。


ザ・ロード
ノーカントリー」の原作者コーマック・マッカシーのピューリッツア賞受賞作品の映画化。
物語は世界最終戦争?の後すべてが無に帰した世界で一人息子を連れて放浪する父の姿を描いたいわゆるロードムービー
例によって、食料の争奪戦、人肉を食らう集団などおきまりの悪者たちがちらほらでてくる物語である。

しかし、この映画の特筆すべきはその美術、画面構図の見事さである。
殺伐とした枯れた林のシーンにしても、その幹の大小の太さと立ち並ぶバランスが絶妙に美的な配置になっている。さらに、荒涼とした大地の地平線近くにゆがんだ電柱が立ち並ぶショット、崩れたビルやハイウェイのシーンが不思議なくらいに美しく、そんなシーンの角に時折、ちらほらと炎が揺らいで、美的なシーンがつづく。

極限の中で生き残るために時に非情になりながら息子を守る父(ヴィゴ・モーテンセン)は好演しているが、時折見せる過剰なくらいのヒューマニズムで正義論を訴える息子がちょっと鼻につく。

ラストは、被爆の影響か血を吐きながら次第に弱っていく父、そして死を迎え、一人になった息子のもとに別の家族が現れてまた旅を続けるというエンディングである。ある意味、特にこれという見応えもないが、冒頭にも書いたように画面が美しいのが見所ですね。