くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「華麗なるアリバイ」「闇の列車光の旅」

華麗なるアリバイ

「華麗なるアリバイ」
アガサ・クリスティ生誕120年としてフランスで完成された話題作であったが、公開後の評判がなんともよろしくない。ということだったので期待せずにいったが、その通りだった。
確かにそれぞれの登場人物が次々と上院議員の館に集まってくる下りはまさにクリスティミステリーならではの導入部を忠実に再現している。そして何かが起こるであろうシーンが近づくと音楽のテンポが変わるあたりそれなりの工夫も見られる。

そして起こる最初の殺人、銃声と悲鳴、このショットはなかなか秀逸、しかしここに至るまでの伏線が何とも弱い、さらにこの後、犯人が誰かという推理ドラマへの発展がこれもまたぐいぐい引き込む魅力に欠ける。
そもそも、この原作はミステリー仕立てであるが恋愛小説的でもある。その奥の深いストーリーをそのまま映像化したのが欲張りすぎたのでしょうか?

ちなみにアガサ・クリスティの映画化作品で成功したと思われるのは「オリエント急行殺人事件」くらいで後は凡作がほとんど、つまり正統派推理小説の映画化というのはそれほど困難なのである。
今回の作品も、最初の殺人の後はひたすらめくるめく女関係の説明が続き、結局誰が犯人でも良くなってくる。一方でミステリー、一方でラブストーリーがそれぞれ中途半端に欲張った結果、ラストのあっけない真犯人の死も、警部の「全くわからなかった」というセリフもあっけない幕切れにしか見えないのである。

今一歩、結局名作ミステリーの映画化は難しいということを証明した作品でした。


「闇の列車光の旅」
こちらは期待作である。そして期待通り見事な映画でした。
全体にこの作品は映像、色彩が細やかに美しい。ストリートギャングや貧民たちの中南米からアメリカへの悲惨な移民劇であるにも関わらず、画面の隅々に鮮やかな色彩を織り込んでいる点が非常に特徴的なのです。

主人公たちがなわばりにしている列車合流点を俯瞰で撮ったシーンでさえ、線路の上にはゴミや浮浪者まがいの人たちがあふれているにもかかわらずパッチワークのように細やかな色遣いがなされている。点描で描いた絵画のごとくである。
さらに主要人物たちの服装にも黄色、赤など鮮やかな単色を多用し、周りの脇役たちの色彩を押さえた服装と対照的に画面を引き立たせている。

映画が始まると、鮮やかな紅葉の景色が画面を覆う。その景色は絵なのか写真なのかそれを見つめる一人の若者カスペルがゆっくりと立ち上がると背中に大きな刺青、それはストリートギャングの組織に一員である証拠である。
そして、一転してたばこをくゆらせながらカズペルが街を歩く。ここまでの導入が鮮やかなくらいに見事。

この映画はこのカズペルらのストリートギャングの様子を描く物語と一方で中南米からアメリカへ列車に乗って不法移民使用とするサイラたちの物語が最初は並行して進む。そして、カスペルが弟分のスマイリーと組織のリーダーリルマゴと移民列車で移動する人たちを強奪しようと列車に乗り、そこで自分の恋人を殺したリルマゴをカスペルが殺したショットから二つの物語が一つに統合されてストーリーが展開していく。

そこでサイラを助けたカスペルはサイラと次第にお互い惹かれあいながらも、組織から追われる自分には未来はないとわざと疎略に扱ってしまう。
そして、サイラを無事アメリカの家族に届けることをつかの間の目標にしていく物語が続く。

遙かに広がる草原や、時折、組織から追われるサスペンスフルな展開もスパイスのごとく織り込みながら、霧に煙るような夜のシーン、さりげなく描かれるショットに映像美にもこだわった監督の演出視点がくっきりと伺える。
しかし、この川を渡ればアメリカというところまできて、サイラを先に川向こうへ送り出したところで物語は観客の思いを裏切るように展開し、カスペルは弟分のスマイリーに撃ち殺されてしまう。

一方で組織を抜け出し、はかない希望を持たんとしたカスペル、一方でカスペルに誘われるままに組織に入ったものの、ギャングのメンバーとして一人前になろうとするスマイリーを描きながら、もう一方でかすかな希望を持ってアメリカへ不法入国せんとするサイラの姿を交え、カスペルとサイラのひとときのラブストーリーも切なくラストを迎える物語構成は本当に憎らしいほどに緻密に完成されている。

そして、映画はサイラが父や叔父たちに覚えさせられていた唯一の身よりの電話番号を公衆電話からかけるところで終わる。
果たしてサイラに本当の希望の未来が手に入れられるのかはすべてが闇の中である。ここまでの道のりで体験した様々なことが現実なのか夢だったのかと思わせられながら。

まさに「クロッシング」などと比較されるにふさわしい傑作でした。