くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「徳川いれずみ師 責め地獄」「明治・大正・昭和 猟奇女犯

徳川刺青師責め地獄

「徳川いれずみ師 責め地獄」
まさにカルト映画と言わしめる石井輝男作品。
物語は江戸時代、ふたりの彫物師とその周りにはびこる女たちのエログロ世界がめくるめく幻想小説のように展開する。
映画が始まると、今にも処刑される男女が貼り付けにされている。竹槍を持った侍が一人の女の股間めがけて竹槍をつきだし悲鳴を上げるところで、タイトルバック。あっと息をのむエログロの世界の始まりである。

タイトルにかぶるのはその場で処刑されていく男女の姿。生き埋め人され、首だけを出した罪人のこぎりで首を切られたりと、「悪魔のいけにえ」そこのけのシーンが続く。そして物語は本編へ。
夜の墓場に一人の女が走ってきて、一つの墓を掘り起こし死体を引き裂いて鍵を取り出す。その鍵はその女の貞操帯をはずす鍵なのだが鍵穴に差し込んだとたん折れてしまう。泣き叫ぶ女、そして物語はフラッシュバックし彼女がそういう境遇になった有様が描かれる。

舞台となる大黒屋のセット、遠景の廊下や三角の部屋、隠し窓など不気味そのままのシュールな屋敷が描かれ、そこで繰り広げられる縛られた半裸の刺青女たちへの責めのシーン。まるで団鬼六の世界のごとしだが、そこがちょっと違うグロテスクさが感じられるのはまさに石井輝男の世界である。

女の体に彫り物をする人気彫り師ふたりの確執、さらに女同士の諍い。刺青女への異常な性欲で商売にしようとする男たちの様子がまるでこの世のものと思えない不気味さで描かれる様は独特の世界なのです。そこに残酷さはありますが、色恋沙汰があるにもかかわらず哀れさはみじんも感じられないのもこの作品の魅力かもしれない。

刺青女を買う外国人、その娘に刺青をして復讐する彫り師、女に執拗な嫉妬を向ける売春宿の女主人、拷問が当然のように行われ、乳房を見せた女たちが当然のように画面の中を闊歩します。そこには動物さながらの欲望の世界が、本能のままに行動し、人が人でなく、人間に理性もない世界は全く通常の感覚では理解し得ないような世界です。

ラストシーンはこれまた有名、逆さづりにされた女が股裂きの刑で左右に竹の枝が広がり一気にまっぷたつに引き裂かれるショッキングなショットで幕を下ろす。まさにカルトムービーならではのエンディングです。
これがカルトでしょうね。先日の「恐怖奇形人間」と双璧をなす石井輝男の代表作です


「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」
こちらはどちらかいうとふつうの作品と呼べるかも知れません。
明治、大正、昭和の五大猟奇犯罪をナレータ形式で吉田輝男扮する主人公が語っていくというもの。
出だしのタイトルバックは臨床解剖をする吉田輝男の姿が描かれ、石井輝男らしいストレートなメスと血のシーンが描かれていきます。

吉田輝男がインタビューや資料に基づいて、過去に起こった女や男の情念のような猟奇犯罪の数々が登場俳優を買えて語られていきますが、そこはあの石井節のごときエログロの世界は見受けられません。実際の阿部定へのインタビューシーンがこの映画の見所といえば見所かも知れませんね。

様々な犯罪を回顧形式で物語として展開するので、途中かなりしんどい部分もありました。石井輝男のあの独特の世界を待っていると期待はずれとなります。しかし、その語るテーマの背景には石井輝男の人間の性に対する強欲的なグロテスクさがかいま見られ、やはり石井輝男の作品であると呼べるものかも知れません。