くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ブリット」

ブリット

はじめて見たのが30年前とはいえ、ほとんど物語の記憶がなかったのは、非常に複雑に入り込んだ展開だったためだろう。
映画が始まると魚眼レンズのようなガラスに男たちが映っている。そしてタイトルがかぶりながら、一人の男がシンジケートから金を横領する展開が小気味よく描かれます。

こうしてタイトルが終わると物語はサンフランシスコへ。証人を保護するように一人の警部補ブリットへ依頼がやってくる。ところがその保護の途中、殺し屋に証人を銃撃された上に、同僚まで重傷に。
病院で瀕死の状態の証人、そして縫うようにカメラは同僚の姿へ視線が移る。それをじっと見つめるブリット、ふっとカメラが移動すると、瀕死の同僚に寄り添う妻の視線と出会う。

この映画の名作たるゆえんはこのちょっとしたカットに刻まれる人間ドラマとしての刑事物語である点である。主人公ブリットにも恋人がいるが、ほとんど映画のラスト近くまでせりふさえ発せられることなくひたすらブリットに寄り添っている。しかし、その視線にはどこか不安と犯罪に冷酷に対処していくブリットへの憤りも見受けられてくる。そして、次第に残酷な犯罪に不感症のごとくなっていく自分の姿に戸惑いを見せるブリットの姿もかいま見られるショットがたくさん登場する。ここが見事。

当然、あの有名なサンフランシスコでのカーチェイスシーン、これはまったく何度見てもものすごい迫力でした。
殺し屋がブリットの車をつけていく、それに気づいたブリットが巧みに路地を回り、殺し屋の車のバックミラーにブリットの車が映されて、逆の立場になったことを見せる。殺し屋の車の運転手がシートベルトを締め、一気にハイスピードのカーチェイスシーンになる。坂がたくさんあるために越える度に相手の車が見え隠れする。カーブと坂のチェイスシーンは本当に見事。そして、展開は郊外のハイウェイへ。ここからのスピード感あふれるチェイスも見所である。そして、殺し屋のショットガン、さらにわき道につっこんでの炎上。ここまで息をもつかせないとはこのことである。

そして、いよいよクライマックスは飛行場での追跡シーン、そしてエンディング、ガードマンを射殺した犯人はガードマンの死体でドアがふさがれあわてたところでブリットに射殺される。
すべてが終わって家に帰ったブリット、ベッドに恋人が眠っている。ピストルを置いて、鏡に映る自分の姿を見る。カメラはゆっくりと置かれているピストルをとらえ映画が終わります。

派手なシーンの数々、犯人を追いつめるサスペンスの妙味、そして一人の人間としての主人公をとらえるシリアスさ、さらに何よりもラロ・シフリンのリズミカルに繰り返される音楽効果のすばらしさ、それぞれが調和した作品こそが名作と呼ばれるのでしょうね。