くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「BECK」

BECK

この手の映画が好きではない上に、これといって好きな俳優も出ていない。もう見に行くまいという予定でしたが、あまりにヒットしているのと、特に見る映画もなかったので、一応堤幸彦監督のファンでもあるので見に行きました。

145分という長尺、とにかく長い。脚本にメリハリがないのか前半と後半に完全に別れたストーリー展開が散漫、今ひとつ芸達者な役者をそろえていないまどろっこしさ、これといって特筆するほどの堤幸彦調も見られない、人物描写も天才ギタリストとして登場する竜介(水島ヒロ)が天才にみえないし、コユキ佐藤健)も今ひとついじめられっこの高校生にみえない。平(向井理)が変に老けてる。周りの女優に魅力がない。ただ一つ光るのが千葉(桐谷健太)のみという状態で、元々期待していなかっただけにうんざりしながら見始めた。

しかし、しかしである。こんなに欠点だらけの作品にもかかわらずいつの間にかその物語にのめり込んでしまう。
荒削りなストーリー展開と、つっこみ所満載の適当なシーンの連続にもかかわらず、ハイテンポで繰り返され展開するストーリーテリングのうまさはまさに堤幸彦ならではの職人芸である。
クライマックスのグレイトフルサウンドのステージシーンはおそらくいままでの日本映画のステージシーンのイメージを塗り替えるだけの傑作シーンでした。このシーンを見るだけでもこの映画を見た価値があると思います。
ダイナミックなカメラワークで縦横にとらえるステージ、細かいカットで主要キャストを挿入し、さらにこれまでのシーンの数々をアクセントに挟み込む。無意味に浪花節調に涙を誘うことはせず、これがイメージだと言わんばかりの編集をこれでもかと繰り返す。これぞ映画である。

それと、原作の音楽のイメージを映像として表現するためにコユキが歌う歌は歌声をださない。唯一クライマックスでは歌詞が字幕になるけれども終始歌声を聞かせず、ただ観客がうっとりと引き込まれる演出によって曲のすばらしさを伝える。ここはなかなかのオリジナリティである。というか、音楽映画で歌声を出さないという発想を思い切ってした堤幸彦監督に拍手したかった。

まるでデビュー作かと思わせるほどの稚拙な展開かと思わせられて、実はこれぞ職人監督の腕の見せ所とうならせる映像展開の冥利を十分堪能する一品でした。あえて、傑作とか秀作という言葉が当てはまらない読者選出のベストテン入選というムードの映画だったと思います