くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「スープ・オペラ」

スープオペラ

不思議なファンタジー映画です。現実のような夢のような画面が展開するのは奇妙な感覚です。ただ、この映画は全く宣伝を見なかった。なぜかわかりませんが、知識なしに見た作品の新鮮なおもしろさを味わうことができました。

映画が始まると、すでに閉園になって雑草が生い茂っている遊園地のメリーゴーランドが映されます。そこへ一人の男が古いアコーデオンを持って現れ、メリーゴーランドの前で音楽を奏でます。そばにいた猫が立ち上がってどこやらヘ出かける。ついたところは昔風の木造の建物の軒先。カメラが家の中にはいると女性が野菜を刻んでスープを作っている。彼女がこの映画の主人公ルイ。同居人は叔母さんのトバちゃん。できあがったスープを二人で食べはじめスープのアップでタイトル。いかにもファンタジーという始まり方です。
ところがこのトバちゃん、突然、結婚すると言い出す。つれてきたのは若い医者。しかも辺境を回る医師なので、このまま出ていくという。

長距離バスにトバちゃんと医師が乗る場面、鐘を鳴らす車掌さんの姿がこれもまたファンタジックな映像です。
こうしてひとりぼっちになったルイ。ところが突然彼女の前に一人の男トニーが現れる。猫を追いかけてきたらこの庭に入って庭がきれいなので絵を描いていたという。突然の来訪で一度は追い出してしまうが、翌日、ハムカツをかってお詫びにきたまま一緒に住むことになる。

一方、友人に誘われた食事会で知り合った編集のバイトをする青年コースケ。彼もまたルイのすむ古風な家にあこがれトニーに誘われるままに一緒に住むことになる。いかにもファンタジックな展開です。住人が増えるごとにメリーゴーランドの前で演奏する人が増えていく。

こうして三人で暮らし始め、不思議な生活が始まる。
本編へ入っていくとほのぼのした映像にどこか非現実的な夢物語のごとくファンタジー蝕あふれる映像に終始していくかとおもえば映像は意外とありきたりで画面の構図もアングルもカットつなぎも平凡なのがどうも今ひとつのめり込みづらい弱さがあります。

大学の図書館で働くルイ、図書館ではやたら当たるタロットカード占いをするフランス語教授、不思議なムードのある館長などがルイの周りを取り巻く。さらに行きつけの肉屋さんの人良さそうな主人、隣の優しそうなおばあさんなどほのぼのした人物が物語を支えていく。

ところがトニーの妻がやってきて、トバちゃんが自転車事故で医師が二三日入院するときに帰ってくるとトニーは出ていく。どうやらトバちゃんはトニーがルイの父親だと推測し手紙を出して呼んだらしいことも明かされる。その後トバちゃんも医師のもとに帰り、コースケとルイは二人きりに。ひそかに想いを寄せ始めたコースケはルイとお互い体あわせて一夜を過ごす。この展開が原作にもあるかも知れないが映像にするならカットすべきエピソードだったように思う。これが無くてもこの後に続くコースケが家を出る展開はつなぎようがあると思うし、このシーンのために妙にこのファンタジックな映画が俗っぽくなってしまった。

そして、コースケがいなくなると入れ替わりにトニーがまた帰ってくる。しかし、ルイの父親であることがルイにも知られたトニーはふたたび去り、またひとりぼっちになったルイ。そして夜の家でテーブルにうっぷして居眠りを。
夢の中で遊園地に明かりがつき、出会った人たちが一同に集まってダンスをする。きらびやかなシーンの中でトバちゃんが「スープの火を止めた?」の一言で現実に戻り目を覚ます。一人スープを飲むルイの姿で暗転、映画は終わる。

ファンタジックな物語にもかかわらず、画面づくりのセンスがないのか妙に現実的なカメラアングルと演出、さらに俗っぽいシーンをそのまま映像の中に取り込んだ脚本の弱さが残念。こういう画面をねらったのかもしれないけれども、いかにもラストの落としどころもまとまりがないのがもったいないのです。

夢見るような展開で、ほのぼのとラストシーンを迎え、思わずほほえみながらエンドタイトルになるのがこういう映画には期待するのですが、もう一歩物足りなかった。