くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「黒い画集 あるサラリーマンの証言」「義兄弟SERCRET REUN

黒い画集

なるほど名作である。たった一言の証言が生むサスペンスの醍醐味を見事に描ききっている。原作が松本清張なので展開の緻密さは原作の味であろうが、物語のきっかけとなるすれ違いの挨拶のファーストシーンからその後の本編の展開に至るリズムはやはり橋本忍の名脚本であろう。そして、背後に静かな曲を流し、時に日常の野球中継の音を挿入することで平凡な毎日を演出しながら物語はどんどん非日常的な世界へはまりこんでいく主人公の姿を見事に映し出す映像は堀川弘道の演出のなせる技だろうか。

もちろん、小林桂樹の演技力の迫力もあるが、「白と黒」同様の役柄で刑事を演じる西村晃が抜群に迫力がある。やはり名優であったのだと改めて納得してしまいました。

映画が始まると、主人公石野がつとめる会社の概要、そして平凡な毎日を送っていることを淡々と説明していきカメラはとある一室へ。ここで私たちは今までのさりげない説明とはどこか違うことに気がつく。このプロットの展開は見事である。当然、アットホームな家庭のシーンにつながるかと思えば実はこの主人公、会社の部下と不倫関係にあり、いつも会社帰りにはビール、パチンコと時間をつぶして女の部屋に通う毎日なのだ。そしてこの日も家には映画にでもいったことにして女の部屋にきたのである。

そしてその帰り、離れて一緒に女と歩きながら路地を回ったところで一人の男と出会う。そして、思わず挨拶を。なんと石野の隣人である。そして、この男が殺人事件の犯人であると逮捕され、その証言の中で犯行時間に石野に会ったと答えたことからこの物語が一気に核心に入っていく。

石野が真実を答えれば不倫がばれる、会社の地位も失う。そこでおもわずうそをつく。念のため、不倫相手も引っ越しをさせる。ところがこの引っ越しがさらに深みにはまることになる。引っ越し先のアパートに住む学生が二人の仲をかんぐり、さらにちょっとした賭でやくざに追われているため金が必要という状況に巻き込まれる。

そして、石野がこの学生に金をゆすられ届ける日にたまたまのんびり映画を見たために学生は取り立てにきたやくざに殺され、それの容疑で石野は捕まり、結局すべてを証言して無罪となったものの、なにもかも失って映画は終わる。
冒頭のビアホール、パチンコのシーンをラストで再度繰り返し、ただ、冒頭では嘘だった映画を見たという行動を挿入、それがために奈落に落ちる主人公の姿を皮肉混じりに描いたクライマックスは秀逸である。俯瞰で小さくとらえる石野の姿となにもかも失ったことを告げるナレーションが非常に殺伐としたエンディングでした。

ただ、個人的には「白と黒」のほうがよかった。


義兄弟 SECRET REUNION
日本映画が忘れかけている娯楽映画の機微がしっかりと盛られた映画でした。漂ってくる風はやはり韓国映画である。お国柄といい、ストーリーテリングのテンポといい独特のムードが漂ってくる。

物語は韓国に潜入した北朝鮮のスパイ、ソン・ジウォン(カン・ドンウォン)と彼らを追う国家機関の諜報員イ・ハンギュ(ソン・ガンホ)との友情なのだが、そのあたりの人間ドラマは完全には描けていない。

また一方で冒頭から一気に入り込む韓国アクション映画の緊迫感、その後のサスペンスフルな展開はそれなりの成功はしている、ものの、出だしの迫力がその後持続しないというちょっと弱さもみられる。

そんなこんなでどれもが完成度の高い作品ではないが、それぞれがそれなりにしっかりとできているために、ちぐはぐにならず最後までストーリーを追っていこうというおもしろさがあるのである。

映画が始まるといきなりサスペンスフルな展開。北朝鮮のスパイと潜入している殺し屋”影”がターゲットに向かう。その情報をキャッチしたイ・ハンギュらが向かうが、現場で銃撃戦の末多数の民間人の犠牲者を出して取り逃がす。そのときのミスでハンギュは免職に、北朝鮮のスパイ、ソンも韓国へ情報を流したと疑われ本国から裏切り者とされる。それから6年後がこの映画の本編である。

たまたまハンギュがソンを見つけ、逮捕せんと近づいたもののその人間性に惹かれお互い友情が芽生えてくる。

クライマックスはいまや本国の指示とは無縁に独断行動で殺人を繰り返す”影”との対決。そして二人は瀕死の重傷で”影”を倒し、二人は別れる。
離婚した家族の元へいく飛行機の仲でソンとハンギュが出くわしてハッピーエンド。

このエンディングが娯楽映画の醍醐味である。見終わって映画館をでるときに「ああよかった」と思えるラストを用意するのが映画製作者の義務なのである。それが悲劇でもいい。観客がこうあってほしいと求める結末へ導くのがベストなのです。

その点、この作品は全体の緊迫感、お互いの家族への想いを何度も描写し、どこかに愛を感じさせるストーリー展開はやはりラストはハッピーエンドにしてほしいと望むのではないでしょうか?そこのポイントをちゃんとキャッチしてエンディングを迎えた。心憎いのである。

だからこの映画は評判になり、ヒットしているのですね。作品としての完成度は中の上くらいですが、すがすがしく映画館をでられたことで、いい映画だったなぁと呼べると思います。