くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「十二人の怒れる男」「シャルロットとジュール」「ブロンド

十二人の怒れる男

十二人の怒れる男
圧倒的な迫力で見せてくる傑作である。
次々と謎が解かれていく下りのおもしろさはもちろんであるが、時にじっくりと延々と長回しするショット、そして一気にクローズアップに寄るショット、そしてじわじわと被写体に寄っていくズーミングと、当時のカメラ技法のすべてを絵像のリズムに呼び込んだ演出が抜群。いったん、室内へはいると一歩も外にでない息苦しさが次々と語られる犯罪の真相?かもしれない事実の懸賞が続く中、息苦しくなってくる緊迫感に包まれていきました。

映画が始まると、真正面からとらえた裁判所の仰々しい建物。そしてカメラが中に入り込むと縫うように老化を通り一つの裁判の法廷の中に入り込む。そこでは、すでに心理も終わり、後は陪審員の採決を待つ状態である。12人の陪審員に別室へ行くように促され、被告人らしい若者のアップで画面は陪審員室へ。

最初の投票の場面でそれぞれの陪審員の境遇や今の心境を語り、一人が無罪を主張する。つまり、主人公であるヘンリー・フォンダである。
こうして、このヘンリー・フォンダを中心にしたドラマが幕を開ける。最後までそれぞれの本名は語られず、ひたすらお互いへの言葉の応酬で物語が進んでいく。

エアコンもない蒸し暑さが漂い。クライマックスでは外の夕立が降る。扇風機やわずかに一歩外になるトイレのショット藻挿入されるものの、冒頭で語ったように、カメラアングルで生み出される映像のリズムと、それぞれの陪審員の鬼気迫る言葉、そして舞台劇よろしく劇的に狭い室内を行き来する動きのショットが後一歩、さらにもう一歩と事件の深層へ入り込んでいく。

結局、全員が無罪を主張して映画は終わるものの、それが果たして真相なのかは誰にもわからない。ただ、陪審員たちが下した結果が示されるだけである。
全員が裁判所を後にする姿を俯瞰で見下ろすシーンで幕を閉じる。

先日見たミキータ・ミハルコフ版のリメイク作品もなかなかの出来映えであったが、あちらは外にカメラがでていって、かなり技巧的な加工がなされていた。あちらもいい映画だったと思う。

いずれにせよ、さすがに名作の貫禄と呼べる一本だったことは否めない。


「シャルロットとジュール」
昔、学生時代に見たときは「シャルロットと彼女のジュール」という題名だったと思います。
オリヴェイラ監督作品が短いのでこのゴダールの短編を併映してました。

かつての恋人の女性が元彼のところへくる。なにを今更といわんばかりにまくし立てる元彼、しかし実は愛しているんだと延々と語る合間に女性の方はコミカルに反応するだけでほとんど言葉を発しない。時々バックに軽妙なリズムの音楽が流れ、ゴダールらしい映像展開になる。

結局、彼女は歯ブラシを取りに来ただけよと行って部屋を出ていくというたわいのない短編映画である。それとなく覚えていたが、さすがに大半は記憶の外だった。


「ブロンド少女は過激に美しく」
洗練された短編小説のような余韻を残す作品でした。
遙か彼方にまっすぐに画面の奥へ消えていく列車のショットのエンディング。さらに続く物語の予感を残しつつエンドクレジットが流れるラストシーンが印象的です。

イエロオーカーとブラウンを基調とした美しい色彩と、組割られたような技巧的な構図が何ともすばらしく、カメラマンのなせる技か、監督の演出のたまものか、その映像美に最後まで引かれました。

映画が始まると、長距離を走る列車の中、クレジットの背景に順番に切符を監察する車掌の姿が映されます。そしてタイトルが終わると一人の婦人と隣り合わせになった主人公マカリオの姿。“妻にも親友にも話せないことは未知の人に話せ”というナレーションとともに隣の婦人に自分の過去の衝撃的な物語を語り始めます。

マカリオは叔父が経営する店で会計事務を行っていた。仕事場の二階のベランダから隣の窓越しに一人の少女を見かける。まるで額縁のように大理石で区切られた窓にレースのカーテンを装飾にたたずむ少女。手には東洋的な扇を持っている。
一目で惚れてしまい、土地の風習通り知人の紹介を得て親しくなり、そのルイザの母に結婚の許しを得たが、叔父の許しを得ようとすると突然首になる。

職を失ったままで結婚できないと、たまたま知り合った男のいうままに遠方へ仕事に行き、財を蓄えて帰ってくるもその知人の保証人になったために再び一文無しに。絶望の中で叔父が再度雇ってやるといい、結婚も許してもらう。そして、ルイザ」と二人で指輪を見に行くのですが、なんと、彼女には盗癖があることが露見する。

罵倒して追い返すマカリオ。叫びながら逃げ、自宅で大きく足を開いてだらしなく座るルイザの姿。そして、ラストの汽車のシーンへと続く。

語っていく物語の合間合間に列車の中でのマカリオと隣の婦人の姿を挿入し、二転三転する衝撃的な出来事から次の展開を語っていくストーリーテリングのおもしろさはまさに卓越した短編小説の如し。美しい映像と小気味良い展開がちょっとおしゃれに見える一遍でした。

先日の「コロンブス永遠の海」より遙かに娯楽性のある作品であり、これはこれで楽しめる映画だったと思います。