「酔いがさめたら、うちに帰ろう」
この映画は良かった。なんといっても東陽一監督のカメラ演出と演技付けが抜群。しかも、キャストそれぞれがばっちりはまり役になって生き生きしている。永作博美も浅野忠信もそして子役の二人もまわりのキャストも当てはめたかのように物語の中で生きているのである。
しかもストーリー展開は軽妙でしゃれっ気にあふれコミカルであって人間味にあふれるホームドラマの如し。見終わってからの爽快感、これからの希望を感じさせるラストシーンは最高だった。
漫画家西原理恵子のご主人鴨志田穣の晩年の物語。といっても、アルコール依存症を克服し、しかしながら腎臓ガンになって壮年でなくなったのだから、晩年と行ってもまだまだ若い盛りであったといえる。
映画が始まると、とある居酒屋で飲んだくれ倒れてしまう主人公。家に帰って大量の血を吐いてそのまま病院へ。その様子を淡々と見つめる永作博美の演技と軽快なあっけらかんとしたせりふが沈み込んでしまいそうな出だしを軽やかにし、さらにストップモーションやさりげないトリック撮影で語る映像演出が絶妙。
その上子供たちも妙に深刻にならずに父親の姿をほほえんで対応する様子もアットホームである。そして一方でしんみりと深刻なシーンをカメラがじっととらえるかと思うと、すーと引いて遠景で静かなショットへ切り替える。さらに背後に流れる音楽や歌声が見事にシーンそれぞれを盛り上げる。このリズム感がすばらしい。
何とか依存症を克服したものの、ガンが発見され残りわずかな生活のために自宅へ帰り家族団らんで楽しそうに海辺に遊びに行ってはしゃぐシーンで映画は終わります。
帰ってからも「まだ死なないねぇ」と軽くいなす永作博美のせりふがいい。このラストが生きるには途中で、あっけらかんとした行動の数々でつづっている永作博美や子供たちのふとした瞬間に涙を流すシーンが効果をもたらしていると言えますね。
子供たちと浜辺ではしゃぐ元夫の姿をほほえましく眺める妻飲めにもう一人の夫が遠くで手を振って別れていくショットが何とも切ないです。良い映画でした。
「黒く濁る村」
韓国では大ヒットしたらしいWEBアニメの実写映画版。さすがに韓国映画という感じの独特の雰囲気あふれるサスペンスミステリーでした。
一見、ホラー映画のような演出が施されて、不気味なムードで前半が展開していきますが、どこか入り込めないムードにどうもついて行きづらかった。
いったいどの物語をテーマにして全編を引っ張るのかわかりづらいところがあるということでしょうか。
出だしは、不気味な導入部で主人公が、父の死を知って住んでいた村にやってくる。なぜか命をねらわれているようなムードが漂い、中身がわからないままにこれはホラーか?と思わせる展開で映画が始まる。
しかし、父親の過去の物語や此村に移り住んだ原因などがフラッシュバックや回想ストーリーで描かれていくと、これはミステリーなのかと思い始める。しかしながら、謎解きに興味を持ってのめり込んでいく物語でもない。時に、不気味な影もあってホラーっぽくもあり、一方で、この村の村長の不正を暴こうとする検事の姿もちらほらと存在感がふくらんできて、金銭欲をテーマにしたドラマかと思う。となれば、社会ドラマか?いったい?・・と見ていくと、主人公の父が助けた女の人の存在が徐々に大きくなってきて、これは人間ドラマか?とも思えてくる。
要するに欲張りすぎたストーリーなのだろう。ネット配信の連続ドラマならもっと中身を丁寧に描けているのかもしれないが、良きにつけ悪しきにつけ韓国ドラマのレベルのストーリーなのである。だからどっちつかずで、結局ラストシーン、実は総ての事件の真犯人はその女の人だったというのに気がつく主人公の姿で映画は終わるのです。
二時間四十分ほどの作品で、おもしろいことはおもしろいのですが、いかんせん、まとまりがつきにくい映画でした。