くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「最後の忠臣蔵」「人生万歳!」

最後の忠臣蔵

最後の忠臣蔵
細部までこだわった丁寧な演出に演技陣が応えた時代劇の秀作でした。劇的なドラマ展開があるわけではありませんが、ここに描かれるのは男の純粋な生きざま、女の強さ、そして、かつて当然のようにあった日本の美しい心ではないかと思います。

方や大石内蔵助から討ち入りの様子を人々に伝えるために生きながらえることを強制された男寺坂吉右衛門、そして内蔵助の忘れ形見を育てるために生きることを強いられた瀬尾孫左衛門、この二人のあまりにもやるせない、それでも忠義という名の下に必死でいきる姿と、忘れ形見である可音の淡い恋心が丁寧につづられていきます。

さりげないシーンやショットに非常に気配りを込めた演出がなされているために、見ていてリアル感と心地よさが伝わり、純粋すぎる心のドラマに次第次第に引き込まれ涙している自分に気がつきました。

たとえば、父のように慕いながらも淡い恋心を抱く可音が孫左衛門の着物を縫うために反物を買いに行き、戻ってきたところで隠しながらあわててかけあがるときに草履を無造作に脱ぐショット。それまで、ほぼ完璧に礼儀作法をしつけられた旨の演出がなされているためにこのショットが見事に今の彼女の心境を映し出します。

物語は寺坂が海辺を歩くシーンに始まります。四十七人の侍の家族、縁者が苦労しないように労金を配るように指示された彼は最後の一人を見つけ滞りなく役目を果たします。その帰り、討ち入り前夜に突然姿を消した旧知の友瀬尾孫左衛門の姿を見かける。

二人はともに内蔵助の命で生きることを命じられた男たちでしたが、瀬尾の使命は誰も知るところがなかった。裏切り者の汚名のままに16年たった姿を見かけた寺坂は、その真相を聞くべく瀬尾に近寄りますが、疎んじられてしまう。

しかし、瀬尾が見つけてきた壷、芝居小屋で人形浄瑠璃を見るというそれぞれの偶然から、物語は可音の婚礼へと進んでいきます。
いままで、少女のように瀬尾を慕ってきた彼女は自らの素性を知るや武士の娘として、そして父の意志をかなえるため、さらに家臣たちの思いに応えるために商家に嫁ぐことを決心するのです。

美しい雪景色、桜の舞う春、紅葉の秋と自然の景色をさりげなく織り込みながら、嫁ぐ日をクライマックスに迎えます。
道中、生き残らざるを得なかった家臣たちが次々と集まってきて、大行列で輿入れするシーンは圧巻であり、またすべてが報われた瀬尾の姿に思わず涙があふれてきました。

すべてを成し遂げた瀬尾は自ら切腹をして果てるというエンディングですが、非常に美しい生きざまの物語は直接熱い何かを訴えかけてきたように思います。本当にいい映画でした。


「人生万歳!」
ウッディ・アレンらしい機関銃のようなせりふの応酬と人を食ったようなインテリコメディでぐいぐいとストーリーを運んでいく典型的な作品である。

しかし、全盛期の彼なら時折見せる何ともいえないウィットやしゃれたショットに思わずスクリーンに見入ったものだが、さすがにこの作品にそのしゃれっ気がない。前作の「それでも恋するバルセロナ」では見事なリズム感で作品を完成させたが、あの軽快感が見受けられないのがちょっと残念であった。

映画が始まるとこの映画の主人公で天才物理学者ボリスが私たちに向かって語りかける。今となっては古びた手法ではあるが毒を含んだ上から目線のウッディ・アレン節炸裂と言うところでしょうか。

そのボリスが家に帰ると階段下に一人の少女メロディが「何か恵んでちょうだい」と語りかける。あまりにも唐突で、このあと、彼女はこのボリスの家に泊まることになるが、何の伏線もなくとんとんと先へ進む演出はいくらウッディ・アレンといってもかなり無理がある。

さらに、プロットを次々と並べ立てるだけでいつの間にかボリスはメロディと結婚。あれよあれよと物語が進む一方で次第に出だしのようなボリスの毒のあるせりふが少なくなる。ここあたりから一貫したインテリコメディという路線が徐々に中途半端になる。

そこへメロディの母がやってきて、これまたなるようになれで二人の男と同棲を始める。さらにメロディに若者がいいより二人はいい仲に、そこへメロディの父もやってきて、なんと彼はゲイと一緒に。そんなこんなで窓から二度目の飛び降りをしたボリスは下を歩いていた女と仲良くなってこれまたカップルとなる。こうして、人生は自由だ、楽しい、といわんばかりにエンディングを迎える。

要するにラストシーンでボリスが私たちに語るせりふがこの映画のテーマなのだろうが、なんとも途中に一本筋のとおった演出がされていないためばらばらである。残念な作品でした。