くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「かぶりつき人生」「濡れた唇」

かぶりつき人生

「かぶりつき人生」
神代辰巳監督デビュー作、日活がロマンポルノ路線をとる直前の映画である。
とはいっても、題材はストリッパーであり、ふんだんに出てくる裸シーンこそ控えめながら、後のロマンポルノへ向かう日活路線がかいま見られる一本でした。
なんとモノクローム作品です。つぎはぎのように展開するストーリーはまさに低予算映画そのものですが、根底に流れるどこかさめざめとした親子の物語、男と女の腐れ縁のようなストーリーはまさに神代辰巳作品である。

画面の構図などに、ようやく監督へ昇格した神代監督の力の入れようが見られるものの、脚本が時間をかけて練られた物ではないためか人物描写や生かし方が甘くなっていて、前半部分に中心的に存在する主人公洋子の母笑子が後半に完全にその存在が消えてしまう。しかし次々と男が変わっていくやるせない男遍歴は一人の女の切なくも一生懸命な生き様を物語るようでまさに1970年代前後の日本の姿を見事にとらえ映し出していると言えると思います。

ストリッパーをし、男にだまされながら次々と男遍歴を繰り返すする母親に反抗しながらも、自らストリッパーとなり、さらに上を目指す中で男遍歴を繰り返す主人公、自分を出世させるために男を変えながら、ラストシーンでは初恋の男と同じ救急車に乗って、いずれ一緒にバーでもやりましょうとつぶやく主人公洋子の姿が何とももの悲しい。


「濡れた唇」
映画が始まると好演でキスをしながら胸をまさぐり、スカートの中に手を入れようとするカップル(当時はアベック)が画面狭しと映される。ロマンポルノ路線は入った日活で神代辰巳がメガホンを取った第二作目。完全にロマンポルノの世界であるが、デートクラブのコールガール絵沢萌子扮する洋子が下ネタの歌を歌いながら行動する姿がなんともコミカルで楽しい上に、神代節であるつぶやきシーンがふんだんに盛り込まれ、まさに神代辰巳映画が成熟に向かおうとする作品であることを物語っています。

恋人幸子とのつきあいに物足りなさを覚える主人公金男がコールガールの洋子と出会い、一目惚れして繰り広げるセックスシーンの数々。とはいってもおどけた展開はまさに日活ロマンポルノの世界。少々下品ながらも笑いが絶えないストーリーが何ともほほえましくて、今となっては懐かしい限りでした。

ふとした弾みで洋子が人殺しをし、逃避行が始まるあたりからの殺伐としたさめたムードこそ当時の日本映画の姿であり、日活ロマンポルノが単なるピンク映画とならず芸術性と娯楽性を維持した大人の作品であったことの証と言えるでしょう。もちろん、SEXシーンはふんだんに出てくる物の、今の芸のないAVとは違って、人間味のある、ぬくもりを感じるシーンの数々がまだまだドラマを作ろうとしていた当時の監督たちのチャレンジであったのではないでしょうか。

逃避行の中で繰り返される男と女の物語は、前半部分のコミカルな展開をかすかに残しながら、次第にやるせない現実へと突き進んでいきます。
洋子が警察に捕まり、仲間がいなくなった中で元の鞘に戻ろうと決心する主人公金男、本当に愛したのは金男だったと叫びながら牢屋に連れて行かれる洋子の姿を斜めの構図で撮ったラストが何とももの悲しいまでに当時の若者の生き方を物語りようにも見えてきます。

決して、くそまじめな芸術作品ではない物の、時代の姿を感じるままに物語にぶつけていった当時の日活映画のすばらしさをかいま見せる一本であったと思います