くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「バベットの晩餐会」

バベットの晩餐会

午前10時の映画祭でようやく見ることができた一本。しかも今回で権利切れになるので今度いつスクリーンで見ることができるか不明の作品である。

非常に静かで神々しいまでに質素なムードが漂う作品であるのはやはり北欧デンマークの映画であるからでしょうか?寒々とするような海辺の小さな村を舞台にある敬虔なプロテスタントの家族の物語である。
主人公はふたりの美しい姉妹マーチネとフィリパ。物語は浜辺に干してあるイカのアップから始まる。そして、ナレーションが流れここにす神父の娘の現在の姿、そしてなぜか一緒に住まいしているバベットというお手伝いさんの紹介へ進む。

さかのぼること何十年か。時はまだ姉妹の父が健在で、村人たちも若々しい。美しい姉妹を見るために教会へミサに行くという説明がなされる。一方のパリで一人の兵士ローレンスが日頃の素行の悪さから此村に言って反省してこいと左遷される。そして彼は此村の美しいマーチネと出会う。

彼女近づきたい一心でミサに参加するローレンスだが、あまりの静粛さに自分の居場所を失い、ふたたびパリに帰る。しかしマーチネとローレンスの間にはいつの間にか切り離せない恋心が芽生えていた。
そして数年、パリから一人のオペラ歌手パパンがやってくる。彼は自分の芸の人生も晩年に近づいたことを自覚し引退を考えていた。そんなとき、ミサに参加してフィリパの美しい歌声に魅せられ彼女に未来の希望を見いだす。そして彼女の歌のレッスンを申し出、日々レッスンするうちにふたりの間に恋心が芽生えていく。しかし、教会の仕事に専念するためフィリパはパパンに別れの手紙を携える。

やがて姉妹の父も亡くなって時が流れたある日、パパンの紹介でパリから一人の女性バベットがやってくる。彼女は無給で良いからここで女中として働きたいという。
こうして姉妹とバベットの生活が始まるが、バベットは非常に頭が良く、作る料理も大変おいしい。村にはいつの間にか暖かい雰囲気が漂い始める。

さらに時がたつ。ミサに来る人々も年老いて、集まっても愚痴や諍いの言葉が横行するようになり、ぎくしゃくしてくる日々に姉妹は悩む。そんな雰囲気を打開しようと父である神父の生誕100年の晩餐会を企画。そんなおり、毎年バベットがパリの友人に買ってもらっていた宝くじが当たる。バベットの申し出でそのお金を使って晩餐会の料理を作りたいということになり着々と準備が進む。

今まで質素に生活していた村の人々、特にマーチネとフィリパの姉妹は贅沢な料理でけがされるのではないかと不安を抱き始める。

やがて当日、今は将軍になったローレンスも招かれ、年老いたパパンも手伝いにやってきて盛大な晩餐会が始まる。
最初は怪訝そうに豪華な料理を食べていた村人たちもかつてパリの一流レストランの料理長だったバベットの料理と計算された食材の配膳で次第に心が和み始め、今まで諍いがあった村人たちの心も次第に和らいでいく。
そして、総ての料理が終わると、村人たちは心穏やかにお互いに手に手を取って円になって笑いながら帰っていく。ローレンスもパパンもパリへ戻っていく。

最後に、バベットは今回の料理に宝くじのお金を全部使ったからまたしばらくここで働きたいと姉妹に告げ、マーチネとフィリパも思わず笑みを浮かべるという物語である。

キリストの教えの本質を語るかのような深みのある物語が単純なストーリーの中に質素と豪華な料理を対比させることで描いていく脚本のおもしろさ。そして、バベットの行動が生み出すどこかミステリアスな興味、人々が次第に和んでいく心温まる展開。さらに長い年月で描かれるあまりにも純粋なローレンスとマーチネ、パパンとフィリパの美しいラブストーリーがラストシーンで見事に一つに融合するさまは本当に静かな感動を呼び起こしてくれます。良い映画の一つの形をしっかりと見せてくれた秀作であったと思います。