くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「一条さゆり濡れた欲情」「赤線玉の井ぬけられます」「四畳

一条さゆり濡れた欲情

「一条さゆり濡れた欲情」
ロマンポルノ作品の中で傑出した傑作と呼ばれる一本。そのバイタリティあふれる映像がスクリーンから迫ってくる迫力に圧倒されます。

映画が始まると今は引退して寿司屋で働く一条さゆりのシーン、そこへ絡んでくるやくざ風の男のショット、そしてストップモーションで物語は少し過去へ戻る。

大阪野田のストリップ劇場、ロウソクショーで一世を風靡し、猥褻物陳列材で裁判沙汰になった話題のストリッパー一条さゆりを迎え、彼女の舞台を鬼気迫るカメラワークで濃厚に描きながら、主人公はるみ(伊佐山ひろ子)が一条さゆりに負けまいと必死になってストリッパーの仕事に励む姿を神代辰巳節で描ききった作品である。

背後に流れる歌、画面いっぱいに繰り広げられる一条さゆりの舞台の迫力、コミカルながらリアリティ満載に即興で演じていくはるみの姿が見事で、ラストシーンに一条さゆりの逮捕シーンまで再現、さらに続くはるみのトランクの中に隠れるショットから交差点でトランクが開いて下着一枚で飛び出すシーン、さらに刑事に裸のままに担がれていって、でてきた舞台で練習していた卵を股間から飛び出させる芸を見せるエンディングまで一気に見せられてしまう。まさに傑作である。

特に伊佐山ひろ子が抜群で、作品の質は彼女と一条さゆりの舞台シーンの迫力で一気に見せてくるところが見事な一本でした。


「赤線玉の井ぬけられます」
なんと清水一行原作というのも驚きであるが、滝田ゆうのイラストを挟みながら、赤線が禁止になる直前の玉の井の女たちの生々しいまでの人間くさいドラマが得意の神代節で描かれていきます。

玉の井の夜の景色が非常に情緒感たっぷりで、登場するそれぞれの女たちの生きざまが非常にリアリティと人間味がたっぷりと伝わってくる。
シマ子(宮下順子)とやくざの情夫志波(蟹江敬三)の物語、結婚を控えた公子、しかし夫の情事に不満を募らせ、最後には赤線で客と遊ぼうとする女の性を描く物語、正月に26人の客を取ったという繁子の記録を塗り替えるために維持になって客を取る直子のミカルなエピソードなど時にコミカルなショットをふんだんに盛り込みながらも売春禁止法が間もなくというときに懸命に生きる女たちの姿を浮き彫りにする映像が不思議なほどにリアルに伝わってきます。

例によって神代節による歌や音の演出が噴出しますが、それが当時の庶民的な下町情緒を倍増させるかのごとく効果満点に生きているのがすばらしい一本でした。


「四畳半襖の裏張り」
言わずとしれた傑作ロマンポルノ。
この作品については神代辰巳監督らしいぎらぎらした即興演出と言うより、計算され尽くされた芸術色さえ伺われるほどに画面の構図や展開、編集、カメラワークなどが非常に完成されていることに冒頭のシーンだけで気づかされます。

このあたりデビュー作の「かぶりつき人生」に通ずるものがあるように思います。

真正面から平坦にとらえた映像で展開する蚊帳の中での柚子(宮下順子)と信介との料亭梅が枝での情事場面。走る人力車の中での柚子と信介シーン、美しく彩られたほかの女たちの色恋のシーンなど非常に美しい。

しかも、背後に流れる歌は例のごとく見事に作品に彩りを与え、それぞれの女たちの出来事が交互に繰り返されてスクリーンに現れてくるリズムが非常に規則正しいのがほかの作品と一線を画している。

料亭花の家で先輩の芸者花枝に教え込まれる新人芸者花丸、初合わせで親密になって結婚まで進む柚子と信介、首をつって女がいく瞬間を経験しろと迫られる山谷初男扮する太鼓持ちのエピソード、座敷で裸になって股間から銭をまき散らす芸を持った芸者のエピソード、出征間近にやってくる軍人、などなど、大正中期の世界の情勢や軍国主義に向かう日本の姿をワンショット的に挿入しながら描く一つの時代の女と男の物語が見事なまでに美しい画面に映し出される様はこれこそ傑作と呼べる一本であろうと思います。

ラストは花枝にレズビアン的に遊ばれた花丸が、今やおけ屋の女房になった柚子を訪ねてきて、早く水揚げしてほしいと訴え、困る柚子らのストップモーションで終わります。

柚子と信介の情事のシーンを中心に交互に描かれる大正中期の時代の様相や様々な女たちのエピソードが見事に挿入されながら展開する紋切り型の作品ですが、時代の断片を見事に切り取った迫力に圧倒される一本でした。