くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「海炭市叙景」「少女娼婦けものみち」「女地獄森は濡れた」

海炭市叙景

海炭市叙景
海炭市という架空の街を舞台に、そこで暮らす人々の姿をオムニバス風につづりながら、人間同士の悲哀、ヒューマンドラマを丁寧な詩編のごとく語っていく作品である。
2時間を超える長尺であるが、元々の原作が短編集なので、それを寄せ合わせた結果になる物故、退屈さはなかった。

函館をその背景につかった展開になっており、大幅な人員削減という不況の中で慎ましやかに暮らす兄と妹の物語に始まり、日の出を見に行っての帰り兄が行方不明になる下りから時はクリスマス前に戻ってタイトルバックへつながって次のお話へ紡いでいく。
日の出を見に行くシーンでふたりを横切った市電がラストシーンでもう一度繰り返されるという表現方法をとっている。

プラネタリウムで働く男と、水商売の妻、諍いの絶えない息子の物語、立ち退きを迫られた場所で一人かたくなに猫たちとクラス老人と役所に勤める息子の物語、プロパンガス会社を営む社長と精神的に不安定な妻、さらにその息子の物語、市電を運転する運転手とその息子の物語と順繰りに語られていって、最初の市電のシーンへ。市電の中にはそれまで語られた登場人物たちが乗り合わせている、通り過ぎた市電の向こうに歩いているのは兄と妹の幼い姿というファンタジックな映像で締めくくろうとする。

が、映画はここで終わらず、市電の運転手の息子が内地へ帰っていくくだりから、猫と暮らす老婆が、最初のエピソードでいなくなった猫が妊娠して帰ってくる物語へ続き、猫を抱く老婆の姿で映画が終わる。
作品としては上質で丁寧な作品に仕上がっている。とはいえ、叙景というタイトルを使っているにもかかわらずそれぞれのエピソードが屋内に引きこもるのはちょっとものたりない。外の景色をとらえて語っていく様子のシーンはまことにそれぞれが美しくて、地方映画として成功していると思います。ラストの市電のファンタジックな映像もこのあたりで終了していても良かったのではないかとも思えます。

とはいえ、欠点はあるとはいえ、それなりの作品であったと思います。私は良かった。


「少女娼婦 けものみち
神代辰巳監督作品、これこそ日活ロマンポルノ後半部の神代辰巳作品と呼べる秀作でした。

映画が始まると一人のセーラー服の少女が格子の床の上でオナニーを始める。そして物語はこの少女を巡っておじさんと学生風の恋人との情事、その末に少女が妊娠をするという物語が骨子になる。
トンネルや海辺の情景、砂浜、テトラポット、さらにかもめ、水平線などを効果的に挿入し、大胆な構図を駆使して即興的な演出と生き生きとする画面展開がなんとも生々しいほどに瑞々しい。

一人の少女が妊娠したことで絡み合う中年の男と学生風の青年の葛藤が時に爆発するような青春の息吹と切ないほどの初々しささえ感じられ、まさに神代辰巳映画の神髄と呼べる一本でした。
ラストはかつて少女の母がしたように自らラーメンの屋台を曳くアップで終わります。

ただ、残念なのは色落ちが激しくて、せっかくの見事な映像が生きていなかったことですね


「女地獄 森は濡れた」
マルキ・ド・サド原作らしく、金持ちの道楽である倒錯の性の世界を描いた神代辰巳作品としてはちょっと異質な一本でした。
しかし、前田米造のカメラが実に美しい上に、東映時代劇を思わせる光と影の演出、さらに「ツィゴイネルワイゼン」のごとく大正ロマンにあふれた極彩色の映像美が所狭しと展開します。そして長回しの舞台撮影のように大胆なカメラワークや延々と廊下を歩く主人公たちをバックしながらとらえる実験的な演出など実にシュールかつ不気味な世界は素晴らしい一本です。

映画が始まると「女主人を殺した主人公の女は三日間歩きとうしである・・・」とうのテロップが繰り返され、「そこへ金持ちの女がクラシックな車に乗って彼女に近づく。このあたりまさにひしぎな幻想世界、江戸川乱歩の妖艶なミステリーのごとしである。

そして、車に乗った女主人と拾われた少女はとある豪華なホテルへ(といっても夜のシーンで外観は見えない)、そしてそこにはなんとも山谷初男扮する不気味な主人が出迎える。この山谷初男の怪演がこの映画の見所といえば見所です。

この屋敷の主人は泊めた客を拾った少女に体で接待させ、その果てにふたりの客を鞭で内ながら犯して銃殺してしまう。まさしく血と性が入り交じった異様な世界が所狭しと描かれて行きます。このシーンを始めグロテスクかつ度を超した映像故に完成後長い間お蔵入りになったまぼろしの映画として扱われたこともある作品であることが納得がいきます。

客を殺した後、屋外で優雅に食事をする主人と少女、そこへ彼方から新たな客が・・・となってエンディング。

美しい映像と摩訶不思議な倒錯の世界をある種不思議な芸術感で楽しむ一本であり、神代節である音楽や歌のスタイルは当然踏襲されていますが、そこに神代映画にちょっと異質な様式美の世界が取り込まれ独特の一本に仕上がっています。ある意味必見の映画であったのかと思いました