何ともバランスの悪い映画である。
映画が始まると、なにやら逆行して運転する主人公エリックの車の中。当然、事故を起こして暗転、タイトルバック、病院のシーンへと続く、ここまで見たところでちょっとおもしろそうだと興味を覚える。
物語は、最愛の妻に逃げられ、息子たちにもバカにされ、なにもかもがうまくいかないしがない男エリック、ただ、尊敬するのはひたすら応援しているサッカーチームの花形選手エリック・カントナ選手。
そんな寂しげなエリックを励まそうと、郵便局仲間の友人たちが自己暗示をかけるアドバイスを施すところから物語が始まる。なにを想ったか、エリックの目の前にヒーローのカントナが妄想で現れて、勇気づける格言を語ったり励ましの言葉をかけてくるようになる。それにつれて次第にエリックが前向きに生きるようになるのだが。
一方で息子がやくざ風の男と知り合ってしまってぬけられなくなり、ピストルを自宅に画さざるを得なくなる。
このあたりの展開が実にスローテンポかつまどろっこしい。エリックの頼りがいのある友人たちのほほえましい姿も今一つ人間味が伝わってこないし、息子がつきあってしまったギャング風の男たちもなんとも迫力がない。
しかもクライマックスとなるギャングの家にエリックの友人たちがバスで乗り付けて仮面をかぶって大暴れする下りまでが何とも長ったらしくて、ラストの見せ場がまたあっけなく、しかも今まで不良然としていた息子たちが一気によい子になって父親を頼る下りも甘すぎる。
全体にそれぞれの人物がしっかりと描き切れていないため、魅力に欠けるのである。しかも、ギャングたちも普通の人間に見えてくるほどに怖さが足りない。妄想で現れるサッカー選手の存在感もどうも弱い。
それぞれのエピソードのバランスが悪すぎて、途中だれてしまってエンディングになる。なんとも脚本と演出の弱さが全面にでた不完全映画でした。残念な一本。