くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アンストッパブル」「宵待草」

アンストッパブル

アンストッパブル
とにかく、本編が始まったらエンディングまでまさに止まらない映画である。それほどおもしろい。なぜか?それはデジタルカメラを駆使し、ハイスピードかつスタイリッシュ、さらに細切れのような細かいカットの連続を編集していくトニー・スコット監督の演出スタイルが見事にこの映画の物語にマッチングしたためである。つまり、この映画にはトニー・スコットが必要だったというわけである。

物語は暴走する列車を命がけで止めた二人の英雄の実話を元にしている。従って、下手をすると過剰にこの二人の活躍を登場させ、せっかくのスリリングな娯楽性を損なってしまうのである。人間ドラマを得意とする監督ならそれはそれで一つのヒューマンドラマに仕上げただろうが、観客はこの映画にそれを期待していないと想う。とにかく、アメリカ映画らしいエンターテインメントを求めたのだ。そして見事に応えたのがトニー・スコットである。

映画が始まると三つの場面で列車がのんびりと走っている。ところがこの映画のメインストーリーである暴走する列車に関わるスタッフたちがそろいもそろっておバカでいかにも道徳心のずれたアメリカンなのだ。そして、事故が起こるべくして起こる。見ている観客はそれ見たことかと思う。ある意味、ざまあみろなのだ。しかし、もう一つ、後に二人の英雄となる男たち、彼らもまた家庭問題に悩み、仕事に今一つ身が入らない。彼らもまたある意味おバカなのだ。

そして、危惧する子供たちが乗った社会見学列車が暴走列車と間一髪で難を逃れた下りの後から一気にこの映画はスピード感をアップする。実話ならではの実際の出来事をポイントの物語以外はさらりと流した脚本がうまい。

回転するカメラワークが一秒間を何シーンにも分けたようないくつものカット、ショット、人物のつなぎ合わせで繰り返し緊迫感を生み出し、一方で刻々と迫る暴走列車のショットとそれを追うヘリコプターのシーンが流れるスピード感を生む。ここまでハイスピードなしかもバラバラにフィルムを散らばらせて次々とつなぎあわせたような映像表現は並大抵の才能と感性、リズム感ではなし得ないいわば天性にものである。そしてそれをトニー・スコットがなしえた。だから、最後まで息つく暇なくおもしろい。

そして、終盤に近づいて初めて主人公たちのドラマがほんのわずか介間みえてくる。このタイミングと長さが秀逸。
そして、次第に迫るクライマックスの危機、そして最後の最後の見せ場へとストーリーは突き進み、一気にエンディングを迎えていく。

エンディングの後のエピローグも非常に手短でこだわらない締めくくりがうまい。そして、さらりと主人公たちのその後を写してそのままエンドタイトルになる。これが娯楽映画の作り方なのだと思う。日本の若い映画監督は是非この映画を見て勉強してほしい。観客を楽しませる方法はこういうことなのだ。


「宵待草」
長谷川和彦の脚本が最高、かつ神代辰巳演出がさえ渡る秀作でした。良い映画です。
一般映画ですが、そこかしこに漂う時代の息吹、青春のまっただ中で心が揺れる若者たちのとまどい、さらには性への執着、社会への反抗などが小気味よい物語の中で、しっかりと伝わってきます。

神代辰巳節である歌やつぶやき、さらには細川晴臣の情緒豊かな音楽が作品のムードを盛り上げてきます。さらにこれこそ映画、これこそ娯楽といわんばかりの長谷川和彦のはじかれたようなストーリー展開が物語にバイタリティを与え、じめっとした内容になるところをあっけらかんと時代を謳歌するような雰囲気をもたらすのはなんとも拍手物です。特に主人公たちが逃避行の中で気球に乗って大空に舞い上がる下りなどはおもわずわぁっと笑いとも爽快感とも言えないおもしろさを感じさせてくれて素晴らしい。

さらに高橋洋子がその肢体を惜しげもなくさらけ出し、愛らしい顔立ちとのマッチングが何とも甘酸っぱい味付けをしてくれるので、一級品の青春ラブストーリーを忘れさせないイメージがこれまた素晴らしい上に、ぶつぶつと神代節をつぶやかせたり、不格好に四つんばいに歩かせたり、ぐるぐるとでんぐり返りさせたりとやりたい放題の演出に応えていくさまはこれこそ日本映画の神髄と冴え思わせられてしまいます。

物語は成金の富豪の息子国彦(高岡健二)、なぜか女性を抱こうとすると頭痛が怒ってのたうち回ってしまうという悪癖の持ち主。冒頭から遊女にバカにされ、帰ってみれば父の美しい後妻に言い寄るもまたも頭痛で部屋の中ででんぐり返りを繰り返してしまう。

その悪癖を直すために湯治に出かけるもそこで知り合った華族の娘しの(高橋洋子)ともうまくいかず、知り合った北天才(荻島真一)は首をつって自殺したりとさんざんなままに戻ってくる

そんな彼は父に反抗し映画館の弁士でもある玄二(夏八木勲)に金をせびりに行く。この玄二は仲間と日本転覆の革命を準備しているという人物。やがてそんな片棒を担がんと行動に加わった国彦、華族の娘を誘拐して襲撃後の逃亡資金を作る手先に加わった物の実はその娘とはしののこと。誘拐した物のしのを逃すことにし、その中で国彦玄二も加わって三人で逃避行する。

車、汽車、果ては気球とまるでニューシネマのごとく展開するストーリー。銀行を襲撃したために警察に追われることになり、玄二は仲間が右翼行動を起こしたことを新聞で知り去っていく。国彦はしのをこれ以上巻き込むまいと浜辺に残して、一人満州へ行く手はずをする漁船に乗る。しかし、そこにはしのを追ってきたしのの用心棒たちがいた。船の上で切られた国彦、襲撃に失敗して命を落とす玄二のショット。夕焼けの中一人待つしのがでんぐり返りを繰り返すシーンで映画が終わります。

良い映画でした。傑作ですね、