くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「赫い髪の女」

赫い髪の女

即興演出に近い神代節が抜群のバランスで成功した傑作。主演の宮下順子を始め、石橋連司他のわき役の男性陣に至るまでが見事にストーリーの中でとけ込んでいる。さらに、男と女の情念の恋が人間ドラマとして見事に結実しているのがこの作品のすばらしいところでしょう。それぞれの登場人物の人生が、生き方が胸を打つように伝わってくる。

ご存じのごとく神代辰巳のスタイルが踏襲されている。背後に流れる憂歌団の歌、細かいカットを積み重ねるタイミングやバランスがストーリーを崩すことなく効果的に配置されている上に、荒削りな映像にならずにお互いに牽制された形で結実している。

映画が始まると一人の女が歩いてくるのがトンネルの光の中で写る。そこへ一台のトラックが走ってくる。その女(宮下順子)とすれ違ってストップモーション、タイトルバックと続く導入部が見事。

そして、物語はほんの少し前に戻ってこのトラックに乗る二人の男光造(石橋連司)と孝男(阿籐海)が土方の親方の娘を犯すショットへ続き、再びトラックのシーンになって、女を拾う。雨が降りしきるショットになっているが、この作品ではこの雨が見事な演出効果を生んでいる。情事を繰り返すシーンでの降りしきる雨、思わず窓枠を蹴って雨音が画面の中に溢れかえるシーンなど目を見張る演出と呼べる。

さらに、ほんのわずかな過去をフラッシュバックで挿入する神代スタイルが作品の味付けに最高の効果を上げている。

拾った女と光造が情事を繰り返しながら、情熱的に求めてくる宮下順子の演技が抜群である。しつこすぎず、それでいて情炎の女というイメージを醸しだし、決していやらしくならない。そこには彼女の過去が投影され、ここまで生きてきた人生が画面からにじみ出てくるよな迫力が感じられます。

一方の光造の方も特に語るわけではないものの、生きてきた人生が見えてくる。ほんのワンシーン、女と一緒に実家へ帰ってそれとなく過去を語るシーンはあるものの、ほとんどが宮下順子との生活場面である。

真っ赤な宮下順子の髪、こたつの光で部屋が一瞬で真っ赤に変わる映像演出、目の覚めるような赤いスリップ姿の彼女のショット、など赤が象徴的に使われ、作品の熱い息吹を見事に増幅していくのである。

ラストは孝男に女を抱かせろと頼まれ、暗闇の中で光造と孝男と友人が入れ替わる、暴れる女がこたつをひっくり返すと部屋が真っ赤に染まる。このシーンのすばらしいこと。

その間、悶々とする男の姿を映し、女にいかに惚れているかを描写、その後、宮下を抱きながら、宮下のアップで映画が終わる。

神代監督作品の中ですべてがバランスよく完成した作品であり、わずか1時間あまりの作品の中に凝縮された人間ドラマの卓越さは、非常に人間くささと、情炎の熱さをぶつけるようにスクリーンから語りかけてきます。そのすばらしさに誰もがうなったのではないかと思う。これこそ斜陽期であった日本映画の中でも突出したバイタリティの存在を見せつける一本といえるのではないかと思う。