くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「噛む女」

噛む女

脚本の荒井晴彦キネマ旬報脚本賞を取ったサスペンスの傑作。というふれこみ通り、緻密に三層に組み立てられたミステリアスなストーリー展開は見事でした。さらに、その完成度の高い物語を前半と後半に演出手法を変えた神代辰巳の演出がさえ渡った一品だったと思います。

物語はアダルトビデオメーカーの社長古賀雄一(永島敏行)が主人公。家には妻ちか子(桃井かほり)と可愛い娘がいます。アットホームな家庭であるはずが、この雄一、手当たり次第に女遊び、夜遊びを繰り返したいるという遊び人。この日も夜遅くまで飲んで朝帰りをするわ、仕事かつきあいかわからない毎日が繰り返され、ちか子もいい加減うんざりとあきらめの入り交じった生活をし、可愛い娘とじゃれ合うことが唯一の心の安らぎのようになっている。このあたりの展開に神代辰巳は細かいカットと映像と音声をオーバーラップさせた演出でトントン拍子に紡いでいく。小気味よいというよりどこかちぐはぐな夫婦の生活が見事に映し出されている。

そんな雄一に友人の山崎(平田満)からテレビ出演の依頼が来る。そして、その出演の直後、小学校の同級生という女辛さ添いの電話が。
おそるおそる雄一がその女早苗(余貴美子)と会い、そのままホテルへ。彼女は興奮するとかみつく癖のある女で、いきなりかみつかれ雄一は久しぶりの快感を覚える。しかし、その後、突然無言電話が雄一にかかり始める。しかも、雄一の行くところ行くところにかかるというホラーまがいの展開が続く。この電話のシーンへと変わる直前の演出で暗闇の中でぼんやりと電話を見る雄一のショットが何とも不気味で、このあたりから映像スタイルが変わっていくのが見られる。

ところが、雄一が会った早苗という女はすでに死んだ同級生の名前で、別人であるkとが判明するや、ますます展開はミステリアスに。
やがて、ややノイローゼ気味になった雄一はある日、高速道路で事故を起こし死んでしまう。

物語はここから三部構成の終盤へ。山崎がちか子を問いつめていく下りの中で、実は総ての企てはちか子の仕業であるkとが証され、共犯になった女はちか子が娘といつも行くおもちゃや野天員であることがわかる。しかし、この解明シーンの中には山崎がかつて雄一が妻を愛していたこと、娘をいとおしんでいたことをちか子に語り、ちか子もまたさりげなく雄一が撮ったホームムービーを娘と見てほほえむ中でどこか夫への好意が会ったkと尾をほのめかす微妙なシーンも挿入される。このあたりはまさに神代辰巳の男と女の情念の物語であり、平凡なミステリー仕立てで終わらせないしたたかさが見られて拍手物であった。

非常に、計算された脚本を元に神代流の男と女の物語が描き出された秀逸の一本であったと思います