くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「イップ・マン 葉問」「若者のすべて」

イップマン

「イップ・マン 葉問」
ブルース・リーが唯一師匠とした格闘家イップ・マンの半生を描いた作品。
物語は単純ですが、本物の迫力が炸裂する格闘シーンは見応え十分です。さらに、かなり中年おじさんになったサモ・ハン・キンポーがでているというのもちょっとおもしろいかなともって出かけたのです。

映画が始まるとデジタルのハイテンポな映像でイップ・マンらしい人物のこれまでのいきさつが手短に流れます。日本軍による弾圧シーンなどがデジタル処理された画面で語られ、やがてイップ・マンは負傷して田舎に逃れた旨のテロップの後本編へ。

この作品には未公開映画「イップ・マン序章」というのが2008年に作られているそうです。

本編にはいると次々と格闘シーンが迫力満点に展開し、西洋人の描き方にかなり偏見のある描写が鼻につきますが、わかりやすい展開とリアリティ満点の拳法シーンに全く飽きさせません。

クライマックスは、あまりにも非道で礼儀しらずのイギリス人ボクサーにイップ・マンが試合を望み中国武術の名誉を守ってハッピーエンド。
家に戻ったイップマンに一人の少年が弟子入りを申し込む。名前は李小龍ブルース・リー)。「大きくなったらもう一度おいで」と返されてエンディング。

これという作品でもないのに、とにかく最後まで一気に見せてくれる。古きよき香港映画のエンターテインメント性の固まりという作り方と、最近では珍しいワイヤーアクションのほとんどない本物の格闘シーンがわくわくわくさせてくれる一本でした。


若者のすべて
ご存じ、ルキノ・ヴィスコンティ監督の代表作、アラン・ドロン生誕75年祭の一本で見てきました。

ほとんどストーリーなど覚えていなかったのですが、3時間という長尺ながらさすがに見応えのある名作でした。

田舎からミラノの都会にやってきた兄弟と母の物語。
兄弟の物語がそれぞれの名前をテロップに入れながら順番に語られていきます。そして、それぞれの物語の根底に二番目の出来の悪い兄シモーヌの行動がストーリーを引っ張っていきます。

シモーヌをひたすら守ろうとする三番目のロッコアラン・ドロン)が作品の中で中心的な存在として登場し、彼らを取り囲むようにほかの兄弟が翻弄される様子が描かれていく。

他の兄弟たちから憎まれ疎まれながらも、シモーヌも含めひたすら息子たちが一緒に暮らすことだけを望む母のあまりにも切ないほどの愛情がひしひしと伝わってくる展開は胸を打ちます。

行き場のない怒りをぶつけながら、徐々に壊れていくシモーヌ。自分の生活を守ることだけで精一杯の一番上のヴィンチェント、何とか母を悲しませないように、そして家族がバラバラにならないように身を切ってつくすロッコ、そんなロッコを少しでも助けようと奮闘する四男、そして、家族がバラバラになることだけは避けたいと思いながらまだまだどうにもならない年齢で歯がゆい思いをする末っ子。

田舎から都会へでてきた家族がいつの間にか都会のすさんだ社会で毒されながら、精一杯一つになろうとする姿。しかし、それぞれの生活を得ていく中で、次第に変わっていかざるを得ない現実。時の流れに押し流され、その中で必死で暖かさを残そうとする母の姿のすばらしさ。

ヴィスコンティが常に描いてきた時の流れのなかで変化していく人々の様子がこの作品でも見事に描き切れているように思えます。
ラストは、末っ子が彼方へ走り去っていきます。どこかもの悲しいですが、これから大人になろうとするこの少年の将来がこの家族の希望につながることを祈るかのようなエンディング。いい映画ですね。