くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「乾いた人生」「切られた首」

乾いた人生

「乾いた人生」
ブラジル映画で、今まで公開されていなかった1963年の作品。ではあるが、非常にしっかりと演出されたなかなかの一品でした。
ブラジル移民の過酷な生活をリアルなタッチと技巧的な編集で見事に映画作品に仕上げたという感覚の秀作であったと思います。

映画が始まると広い殺伐とした原野、タイトルが流れる中で遙か彼方から一組の夫婦とふたりの子供、そして一匹の犬がやってきます。全く何もない原野の彼方からようやく見えてくるこの家族の姿がなんともものさみしい。
そしてタイトルが終わると、くたびれたこの家族は道ばたへ一休み。妻が携えている箱の中のオームを絞め殺して食べるシーンが冒頭に描かれ、この家族の貧困の極みである姿を叙述に描きます。

そして、疲労困憊の中ようやくたどり着いた小屋。ひとときの安らぎ、飼い犬が走り回るのネズミを捕まえてくるのでそれを食べる妻たち。このショットもかなりショッキングでありリアリティを伝えてきます。

その小屋はある裕福な一家の牛飼いの小屋で、そこでようやく仕事をもらえたこの家族はここで働くことに。しかし、奴隷同様の賃金でしか雇ってもらえない上に、ことあるごとにさげすまれた仕打ちを受ける家族の様子がさりげないエピソードを次々と積み重ねて描かれるさまはサスペンスフルでさえあります。

そして、しばらくたったものの、わずかな稼ぎしかない上に、ふとしたばくちでわずかな金をなくしてしまう。どん底からいつまでも抜け出せない家族に、ふたたび干ばつがやってくる。がまんの限界になった夫婦は再び旅立つことを決意。しかし、飼い犬は病気になり、やまれず撃ち殺す。このシーン、犬が倒れ、足を引きずりながら横たわって、かたわらを走り抜けるのネズミも捕ることができなくなってじっと犬の視線でとらえるショットが実にもの悲しい。

そして家族は再び原野の果てに。いつまでもいつまでも歩いていく家族がやがて地平線の彼方に消えて映画が終わります。
じわりとくるリアルに胸を打つ感動はこの作品が優れた一本であることを証明したと思います。モノクロームながらここまで作り込まれた映像はそうたくさんあるものではないと思う。素晴らしい一本でした。


「切られた首」
もう一本も初公開のブラジル映画
と、こちらは全く理解できなかった。まるで、前衛演劇の舞台を見ているかのごとくで、次々と登場する人物、次々と脈絡もなく展開するシーンの連続。時に殺戮シーンがあるかと思えば、延々とセリフが語られる。突然群衆が現れる。大鎌をもった意味不明の男(奇跡を起こす羊飼いらしい)が現れる。目の見えない男が目が見えるようになったり、歩けなかったはずが歩けるようになったり。しまいには、理解しようとせず、次々展開するシーンを笑ってしまうようになってしまった。

映画が始まるととある城が映され、タイトルが終わると一人の男を真正面にとらえるショット。その男ディアスはなにやら電話を二つ抱えてわめいている。そのシーンが延々と続くと、突然に画面が変わって、冒頭に書いたシーンが次々と展開していく。

解説ではこの男がエル・ドラドという仮想の国を作らんとするも住民たちに反対され、自らの葬儀を執り行おうとする等々の物語であるらしいが、結局、登場人物が何のたとえなのか、何かの象徴なのかもわからず、脈絡のないままに進んでいく物語(?)についていけなかった。

まさに芸術家の作り出す映像は理解の範疇を越えているとしか言いようのない感想になりました。