くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「細雪(島耕二監督)」

細雪

オブラートに包んだような非常に落ち着いたそれでいてしっかりと物語を紡いでいく演出が安心してみていられる名編でした。特に四人の姉妹のそれぞれの性格分け、考え方が実に見事に描写されています。

本家を継ぎながら、サラリーマンである夫と時代の流れの中で関西を離れ東京で暮らしているうちにすぎ行く古き時代の息吹を感じ取り、次第に現代的な考えに変わっていく長女。
関西で分家をするも、いにしえの古風な家柄にこだわって、いつの間にか周りが変わっていくことに一番出遅れてしまう次女。
姉や妹の心根を敏感に感じながら自分の幸せさえも時として棒に振ってもいたしかたないという気持ちを持って、それでも強さと弱さを微妙に見せる三女。
とにかく現代的で、古風な家柄から必死で飛び出そうともがくもどこかに古き良き家柄への執着からのがれられない四女。

それぞれがそれぞれの生き方の中で、お互いを認めあい、わずかな溝も次第に埋め合わせていく物語の展開が本当に心地よいほどの風情で伝わってきます。

背後にモダンジャズピアノ曲をふんだんに挿入する前半部分の古さと新しさのアンバランスな演出が絶妙で、そんなちぐはぐな導入部から次第に姉妹が一つになるにつれて、オーソドックスな画面づくりへと流れていき、すべてがまとまり粉雪が舞うラストシーンへの展開のすばらしいこと。

さらに、この手の古い映画を見る楽しみは懐かしい関西の風景でしょうか。豪壮ともいえる旧家が並ぶ芦屋の風景。まだまだ近代化などが全く見え隠れもしない通りの並木や川のたたづまい、子供たちの日常の姿などがなんともいえないノスタルジーを感じさせてくれます。

そして、やはり和服を着こなせる女優さんたちのしっかりとした演技が実に自然ですね。
今作るとどこかぎこちない風情が作品全体から伝わってきます。それは失われてしまった原風景がいくらCGを駆使しても再現できないばかりか、年に数回着るか着ないかわからない和服を突然着たところでいくら名女優といえども着こなしきれない人が多いためかもしれません。

そんな意味で、やはり古い映画でしか描けない唯一無二のすばらしさをこういう作品を見ると感じてしまいます。いい映画でした。