くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヤコブへの手紙」

ヤコブへの手紙

珠玉の名編と呼べる一本の映画に出会いました。
映画が始まってちょっと驚くのがそのスクリーンサイズです。感動の人間ドラマという物語で、どちらかというと地味な作品であるはずなのに1:2.55の横長画面なのです。そして、その理由は映画が始まるとわかります。

監督であるクラウス・ハロという人のこの作品についての演出スタイルに必要であるからなのです。

アップが数回繰り返され会話が一段落するとすっとカメラが引いて美しいフィンランドの風景、あるいはうらぶれたヤコブ神父の部屋などが横長の画面にすっと広がる。そしてその構図の一点に存在する登場人物。ある時は主人公であるレイラ、またあるときはヤコブ神父、またあるときは郵便を配達してくる郵便屋が遙か彼方からこちらへ走ってきます。

そしてこの繰り返しを最後まで徹底しながら次第に訴えたい物語のテーマへとつながっていく展開が実に美しい。

映画が始まると、めがねをかけた看守のアップ。そしてその向かいに座るレイラ。このレイラ、なんらかの罪で終身刑だったが、このたび恩赦が降りて釈放。そして働き口までが決められている。

働き口とはヤコブ神父という人のところへいって家政婦のような仕事をすること。

嫌々ながらそこへ出かけたレイラはそこで盲目の年老いた神父に出会う。
彼の元に送られてくる悩みの手紙に返事を書いているが、その手紙を読んでくれる女性が老人ホームに入ったのでその代わりをしてほしいというもの。

気乗りしないままに神父の助けをするレイラ。うさんくさそうに対応する郵便配達人。
ところがしばらくして、手紙が来なくなる。
次第にふさぎ込んでいくヤコブ神父に、一度は突き放し、自ら自殺しようとしたレイラは嘘の手紙を彼に語ることにする。

その内容とは、レイラが自分をかばってくれた愛する姉を救うためその夫を刺し殺したことを打ち明けます。
ヤコブ神父はその内容から、レイラの話であると悟り、彼女の恩赦を願ったのは自分ではなくその姉であることをあかします。

そして、姉から数十通の手紙をレイラに渡したヤコブ神父は、コーヒーを入れようと庭から家の中へ。
なかなかでてこない神父を探しに家にレイラが入るとそこに命つきたヤコブ神父が倒れています。

果たして彼に届いていた手紙は神がなせる仕業だったか、そしてレイラを救済した神はヤコブ神父を天に召したのか。そして毎日書かさず配達していた郵便配達人は神の使いだったのか、すべてがつじつまが合うようにまとまっていくストーリー展開の見事さ。そして、ブル中野を思わせるようないかつい姿のレイラ役のカリーナ・ハザード、さらにヤコブ神父を演じたヘイッキ・ノウシアイネン、そらに郵便配達人を演じた役者に至るまで、実に見事に映像と一体となってコラボレートされ作品の中で完成されている。

わずか75分という時間の中に凝縮された美しい一遍の詩のような物語は、エンドタイトルの後、涙を誘わざるを得ません。すばらしい名編でした。フィンランドの映画にこれほどの作品があるというのもすばらしいですね。