くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ブンミおじさんの森」「トスカーナの贋作」

ブンミおじさんの森

ブンミおじさんの森
タイ映画として初めてカンヌ映画祭パルムドール賞を受賞した話題作。ではあるが、いかんせん退屈な映画だった。この映画を見るためには俗世間の常識や考え方をすべて白紙にして感性を解放し、スクリーンに展開する映像と、語られるセリフ、そして、示されるナレーションそのままを受け入れていくことで沸き上がってくるこの作品のテーマを感じ取らざるを得ないのではないかと思う。

「森を前にすると自分たちの前世であった動物や生き物の姿が見えてくる」というナレーションとともに映像が始まる。
牛がつながれているが、その牛がつながれたひもをほどいて森の中へ。それをつか前に来る青年。カメラがゆっくりと左にパンすると目だけが赤く光った毛むくじゃらの様な生き物がじっと見ている。そしてタイトル。

ブンミおじさんは腎臓の病で自宅で透析をしている。妹のジェン、その息子のトンと三人で食事をしていると、突然19年前に死んだ妻フェイが現れ、さらにチューバッカのような毛むくじゃらの姿で息子も現れる。
そして、展開するシュールなかに、過去が消え去り未来へ変わりゆくタイの姿を見せながら、ブンミおじさんとジェイたちは森の奥に出かける。そして、ブンミおじさんの寿命もまもなく消えようとする。

森では毛むくじゃらの獣たちや動物たちが彼らを迎え、洞窟の奥に進んでいくにつれて聞こえてくるのはまるで「2001年宇宙の旅」のスターマインのごとくの陶酔感である。

獣の姿の息子が語るのは、未来へいった自分はそこで独裁者に治められる国や若者たちの姿。そして、そんな現実をみた中で消えていく自分を語る。
過去が消え、未来へと急激に変わる国の姿を不思議な感性で語るこの作品のいわゆるクライマックスである。

画面は変わりブンミおじさんの葬式の場面。香典を集計するジェンたち。そこへお寺で眠れないと僧侶姿のトンが入ってくる。宗教的な風習はよくわからないが、このトンは葬儀の間僧侶になるのか?親族と一緒になることはいけないことのようだが、結局、シャワーを浴びて、そのままジェンと食事にでる。しかし、同時にトン、ジェン、その娘がテレビを見ている姿も映し出される。何ともシュールな映像である。

前半の森の中での神秘的なシーンとは打って変わって近代的なショットでエンディングさせるという独創的な感性がカンヌの審査員をうならせたのであろう。退屈ながら、ちょっとした才能を感じさせる作品だったと思います。


トスカーナの贋作
こちらは打って変わって、平凡な男と女の物語かと思いきやなかなかの名編でした。真実の物語か偽物の物語か、めくるめく様な目眩のような感覚にとらわれ、本当の二人の関係が時としてわからなくなるという幻惑にはまっていく。実にオリジナリティあふれる感覚の作品でした。

映画が始まると一冊の本が机の上に置かれ、折しもこの本の作家が講演をするという設定でタイトルが始まります。
そこへ遅れてきた一人の女性、そこへ彼女の息子らしい人物も入ってきて、二人はしばらく後に会場を後にする。
ファーストフード店で食事をする二人の会話にはどこかぎくしゃくした親子の関係が描かれます。

骨董品店を営む女性のところに作家の男性が現れるシーンからがこの映画の本編。何で、こうも簡単にこの男は彼女のところへ来るのか?という疑問の中、二人は車で女性のおすすめの場所へ。車の中で延々としゃべるこの女性の様子はまさに欲求不満のグチのオンパレードに聞こえる。その様子を写すカメラはフロントガラスの正面からとらえているのですがそのガラスに次々と周りの景色が映し出され非常に美しい。このシーンで、おや?この映画ただ者ではないかもと思わせる。

二人がついたところはなぜか新婚さんだらけで至る所にウエディングドレスを着た女性や新郎の姿が見え隠れする。
「何でこんなところへ?」という観客の疑問の中、彼女は50年前に偽物と判明したという美しいフレスコ画を飾っているところへ作家を案内する。どこへつれていかれても不機嫌な作家の様子に、いったい二人の関係は何なのかと惑わされ始める。

気がつくと、二人が延々と話をするショットは非常に長いカメラワークでワンカットで追いかけていることに気がつく。
二人が入った喫茶店ではお互い、携帯電話ででたり入ったり、一緒に座る暇もない。そんな様子を見ながら、喫茶店の女主人は二人を夫婦みたいだと語り、夫婦に間違われたと彼女は作家に話す。

ところが、物語が進むと彼女はその作家に、15年ぶりの旅行であるような内容の話をし始める。二人が新婚旅行でこの地にきたかのように語り、今にもそっぽを向いて分かれてしまうかのような二人の姿が、ふとしたきっかけで男が彼女に優しい言葉をかけ、二人が泊まったホテルの部屋に入る。

彼女が窓からの景色で男に思い出すことはないかと語るも男は興味なく答え、寂しそうにベッドで涙ぐむ女性を後に、トイレに立つ男。おりしも鐘の音が男の背後に聞こえ男ははっと思いだして画面からフレームアウト。窓の外に二つの鐘が同時になる教会がみえる。彼女が思い出すことはないかといったのはこの景色だったと語られる映像で映画が終わる。

ガラスに映る人物の映像などにさりげない画面づくりの工夫がみられ、人物が語る姿を真正面からじっととらえてひたすら語らせる演技演出、ドキュメント風に二人の人物を追いかけていく長回しのカメラワークなど、思い起こすとかなりの芸術志向のある作品で、必見の一品であったと思います。