くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「女の園」「妻の心」

女の園

女の園
木下恵介監督の社会ドラマと呼べる一本である。
規律が非常に厳しい京都の正倫女子大学を舞台に、学生時代からつきあっていた下田という青年との恋を反対され、親の勧める結婚から逃げるために大学に入った主人公芳江(高峰秀子)の苦悩を中心に学生たちが学校の方針に反対し学生運動へ進んでいくまでを描いています。

映画が始まると学生集会で女子学生たちが集まり、これから全校集会を開催するべく声を上げているシーンから入ります。そして向こうからこちらにぐーんと迫るようなタイトルでクレジットが入り、物語は少しさかのぼり、学生集会にいたる事件の物語へと進んでいきます。

3年の銀行員生活の後学生になった芳江はどうしても勉強についていけず、といって学生寮の消灯時間などの厳しさもあり、時間外の勉強もできず、さらに恋人下田(田村高広)への手紙も寮長たちに検閲される息苦しさに、半ば神経衰弱になっています。

同室の友人たちにも迷惑をかけているのですが、そんな中で京都の男子学生と親しくなる富子(岸恵子)や財閥の娘で学校への影響力がある明子(久我美子)など様々な学生たちの姿が描かれながら、複雑な学生同士のドラマ、さらには自由と規律、義務と権利の意味を問いつめていく木下監督の視点が実にシリアスで迫力があるのです。

高峰美枝子扮する寮長五条の鬼気迫る迫力もさることながら、学校の否応ない規則に微妙な反抗をする補導担当の平戸の微妙な心理の揺れ動き、さらに、どうしようもなく、最後には自殺に追い込まれていく芳江の姿をややオーバーすぎるほどの演技で演じていく高峰秀子の迫力に最後まで引きつけられる秀作でした。

木下恵介というと「二十四の瞳」などに代表されるほのぼのした作品のイメージがありますが、これほどまでに社会派ドラマを重厚に描くとはまさに驚愕の一本でした。しばらく、木下恵介作品を追いかけてみたくなりました。


「妻の心」
成瀬巳喜男監督作品。老舗の薬屋を舞台に、隣地に喫茶店を作って、傾きかけている店の台所を建て直そうとする次男信二(小林桂樹)と妻喜代子(高峰秀子)を主人公に、妻としての生き方の微妙な心の葛藤を見事に描いた傑作でした。

突然、かつて家を飛び出した長男善一(千秋実)夫婦が戻ってくるところから、この老舗の薬屋の雰囲気が微妙に波風が立ち始め、どこかぎこちなくぎくしゃくしてくる様が実に見事に映し出されていきます。

東京の会社が倒産し、どうしようもなくぶらぶらする善一。新しい事業の話に乗った善一は弟信二に金を無心する。しかし、喫茶店を作るためようやく工面した金を融通することになるため、微妙な軋轢が生じる。そこへ絡んでくる母、さらには喜代子が喫茶店開業のため近所の料理屋で修行する一方でお金の準備に知人の兄健吉(三船敏郎)と懇意になり、家での息苦しさからふと女として健吉に揺れる複雑な女心、そんなまるで陽炎のような妻の心の揺れ動きをさすがに成瀬巳喜男監督は見事に映像として描ききるからすばらしいのです。

結局、善一は再び東京でサラリーマンになり、健吉と喜代子の淡い物語も立ち消え、再び信二夫婦は元の姿となって、延びたとはいえ、もう一度喫茶店開業へと望みをかける家族の物語となってエンディングになるのですが、老舗が並ぶ町並みの景色や、古きよき日本の懐かしい町並みがなんとも見事な画面構図でとらえられているので、それを見るだけでもほのぼのと癒される思いでした。

どこという奇抜なショットこそありませんが、絶妙のリズム感で描かれる家族の、そして女の物語はさすがに成瀬監督の手腕発揮の一本だったと思います。いい映画をみました。