くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「笛吹川」「名もなく貧しく美しく」

笛吹川

笛吹川
1960年木下恵介監督作品。
極彩色の襖絵のような美しいタイトルが終わると、なんと画面はモノクローム、にもかかわらず、カメラの眼に色を施したフィルターをかけたのか、空だけがブルーだったり、地面だけがグリーンだったり、燃える屋敷が真っ赤だったりと、いったい木下監督の頭の中はどこまで柔軟なのかと思ってしまう。

しかも、時に全体にフィルターをかけた映像も現れるし、ちらちらと燃える炎だけが真っ赤なショットもある。人の顔がブルーに透けていうような画面もある。そして、当然、見事な画面の構図が飽きさせない画面となって次々と展開する。

物語は信州の笛吹川の袂にすむ貧しい農民の家族の物語。時は戦国時代で、武田信玄の統治にあるのがこの土地である。合戦シーンは上杉と武田の戦。そこへ何とか手柄を立てようとこの家族の息子たちが入れ替わり立ち替わり参加する。それを嘆く主人公定平(田村孝弘)とその妻おけい(高峯秀子)の様子が何とも客観的な木下恵介の視点で描かれていく。
主人公といっても、五代に渡る家族の物語なので、始まりはそのおじいさんの代から始まるのです。

そして、武田と上杉、さらに織田信長が攻めてくるあたりまでが時の流れとして描かれていく。
冒頭、合戦に行った息子が敵の大将を倒し旗を持ってかえってくるファーストシーンから、時は移り、その孫が合戦で死に、笛吹川に旗が流れてくる下りのエンディングへ続く。

それぞれの俳優たちの演技が実にすばらしい。そして、実験的な映像で次々と語っていく木下恵介の演出がすばらしい。
まるで芝居のように、一つのセリフやフレーズが繰り返されたり、台詞にさえも実験的な試みがなされ、実に巧みな作り方に挑戦する木下恵介監督の意図が見赤暮れする。

物語は正直ちょっと退屈であるが、単純な戦国時代の貧乏な百姓たちの戦乱に対するさめた視線が切々と描かれ、いつの間にか武田方が破れていくにもかかわらず、そのお館様をまもらんと啓蒙されていく定平の息子や娘たちの姿が何とも現代的で恐ろしくもある。そしてなんとか彼らを家に帰らせようとびっこを曳きながらせまるおけいの姿も恐ろしいほどの執念である。

しかし、皆が死に、一人待つ定平のところに旗が流れてくるエンディングがなんともいえない木下監督の訴えが響いてくるようで重々しいほどの感動を呼び起こしてくれるのです。全く、お見事な一本と呼べます。

名もなく貧しく美しく
松山善三監督のデビュー作であり、名作といわれる感動作である。
細かな台詞やプロットが最後までしっかりと生きてくるというのはさすが脚本が素晴らしい。

映画が始まると影絵で手話が要すが映されタイトルになる。
時は終戦間近、東京大空襲のシーンから始まります。襲いかかる敵機に逃げまどう人々、そこに主人公秋子(高峰秀子)の姿がある。三歳の時の高熱で今は耳が聞こえない。たまたま泣き叫ぶ赤ん坊を拾い上げ、彼を抱きながら逃げる。

ところが、嫁いでいた寺に夫と戻ると、夫は急病で急死、そのまま秋子は実家に帰らされる。
実家で母と暮らすかたわら聾唖学校へ行き、そこで後の夫道夫(小林桂樹)と知り合う。彼もまた全く耳も聞こえない。
二人が会話するバックに電車を激走させたり、音の演出で対比して彼らが耳が聞こえない姿を対照的に描く演出が心憎い。

そして、プロポーズなど大切なシーンでは音のない場所を選んで語らせる下り(といっても手話であるが)がなんとも凝った演出である。
その日暮らしの二人の生活、最初の子供の死が、夜中にはいった泥棒や物音に目覚めなかったために赤ん坊を死なせてしまう
という展開の切ないこと。そして、必死で生きる二人に、出来に悪い弟がことあるごとに重荷になる下りは、ありきたりかもしれないが、実に悲しい。

二人目の息子も最初はひたすら反抗するが、突然、いい子になる。このときの変化のポイントがどこにも見られないのがちょっと物足りないが、この後、展開は貧しいながらも慎ましやかな幸福な展開へとかわる。しかし、それもつかの間、かつてたすけた赤ん坊が秋子を訪ねてきたために、学校からあわてて帰ってきた秋子は途中で交通事故に遭い死んでしまう。

悲しみに暮れる道夫の姿、そして力強く生きようと心に決めて映画が終わる。

明らかに昭和三〇年代の時代背景が有ればもっとすばらしさを実感できる作品であり、当時大ヒットしたのは十分にうなずける。
時にかなりのワンシーンワンカットを試みたりする工夫された演出も見られるが、非常にきまじめが画面作りであまり奇抜なことに挑戦はしていない。そのストレートさがそのまま二人に聾唖者の物語をまっすぐに観客に伝える結果につながったのだと思う。実にまじめで好感な名作だと思いました