くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「キッズ・オールライト」「マーラー君に捧げるアダージョ」

キッズオールライト

キッズ・オールライト
ちょっとおもしろい映画である。二人の女性とそれぞれの女性の子供たちの四人家族の物語。あまりにも常識のある二人の女性と、今時珍しい、まじめな二人の子供。ただ一つ変わっているのはこの二人の女性はレズビアンで、同じ精子提供者から精子を提供されそれぞれの子供を育てているということ。

ある日15歳である息子レイザーは18歳の姉ジョニに頼んで自分たちの精子提供者の男性に連絡を取ってもらう。そして、それぞれにその男性ポールと会い意気投合するのである。

このポールという男性も常識のあるふつうの男。やがて、二人のママも彼と会うようになり、次第に親しくなるが、いつの間にか家族の間にぎくしゃくしたものが生まれ始めるという物語。

二人の女性と二人の子供の四人の家族の心の変化が少しづつ崩れていく様が実に見事に描かれていて、しかも非常に軽快な展開を見せる。どこか、めんどくさいほどに重い話になりそうなのに、それぞれの人物が常識のある今時では古いくらいの人々なので、かえって、暖かいホームドラマのように見えるのだ。

二人の子供たちの親しい友達はジョニの友人はことあるごとにセックスの話をする女の子、レイザーの友達もコカイン常習者ですぐに切れる今時の男の子。なぜかジョニとレイザーは今時珍しい優等生なのだ。

軽いテンポの音楽を多用し、出だしからレイザーがスケボーで町を駆け抜けるファーストシーンを始め、細かいカットをイマジナリーラインさえも無視した自由奔放な編集で語っていく監督の演出が実にモダンで、それでいて心地よいリズム感を生み出す。

だから、最初の登場人物たちの奇妙な設定や当たり前のように精子を提供され子供を産んだレズビアン夫婦の違和感もいつの間にかとってもきれいなホームドラマに変わっていくのです。

ジュールスとポールがなぜか男と女の関係になってしまい、次第にさらに溝が深まる中、ジュールスの夫(女性だが)のニックがやたら家庭をまとめようとリーダーシップをとって子供たちやジュールスに接したためにさらにぎくしゃくしてきたことに反省しポールの家でみんなで食事をしようと提案、ところがポールの家でニックがジュールスのくせである櫛に絡んだままの髪の毛を洗面所で発見、さらに家族の絆が崩れる。

しかし、それぞれがどこか冷静ですぐに思い直し、やがてジョニが一人で大学の寮に行く日が来ると、再び家族は一つになっていく。レイザーがニックたちに「別れないでね、もう年なんだから」と告げるラストのせりふが実に暖かくて感動を呼んでくれます。

いい映画でしたが、反省したポールがジュールスたちの家を夜に訪ねてけんもほろろに追い返されるのはちょっとかわいそうすぎるかな?ポールも悪い人ではないのですからもう少し暖かくエンディングさせてあげるべきだった気がしないでもありませんでした。

マーラー君に捧げるアダージョ
バグダッドカフェ」の名監督パーシー・アドロンが息子フェリックス・アドロンと久しぶりにはなった作品は音楽の天才マーラーの愛と葛藤の半生をつづった見事な芸術映画でした。

映画が始まると美しい映像をバックに愛に悩むマーラーフロイト博士の元を訪れるシーンに始まる。そして、フロイトの診察を受けながらマーラーは愛する妻アルマとの出会いから愛の日々を回想しながら語っていく。

愛に奔放すぎるアルマの自由自在の愛欲の生活、そこへ現れた音楽の天才にしてかなりの年輩者のマーラー。アルマの音楽にも興味を示したかに思えたがマーラーが求めたのは純粋な妻としてのアルマの存在。

やがて二人は結婚、子供もできるが、天才マーラーには愛の日々以上に音楽への造詣が異常であった。その姿を周りに存在した画家のクリムトやアルマの知人などがドキュメント風に語るシーンを挟みながら描いていきます。

カメラの構図や映像表現の限りを尽くして展開させる美しいシーンの連続はまさに芸術。斜めに流れるカメラワークから次のシーンへの転換や時に画面の左右に配置する人物のショット、目の覚めるほどに美しい郊外の風景のショット、やや露出オーバー気味にきらきらとまぶしいほどの光の演出、芸術写真のように色彩を駆使した湖のシーンや重厚で巨大なイメージで移される音楽ホールの場面など、どれをとっても息をのむというのがふさわしいほど美しい。

あまりにも見事すぎる映像演出故か、マーラーとアルマの苦悶の心理描写がやや希薄に感じたのも事実で、アルマが療養先でみせる奔放なセックスシーンがややエロチックすぎて全体の作品の中でちぐはぐに見えてしまったのはちょっと残念。

結局、子供が病死、その後の夫婦の確執の中でアメリカに渡るが次第に死期が迫るマーラーはヨーロッパに戻って死を迎えるというナレーションが続き映画は終わります。

一つの映像芸術のごとくの美的なリズムを堪能させる作品したが、やはり物語が退屈でしたね。もう少しメリハリのあるドラマチックな抑揚も作り出しても良かったのではないかと思います。映像に懲りすぎたきらいがあったような感想の映画でした。でもハイレベルの芸術作品でした。