くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「八日目の蝉」

八日目の蝉

あまり期待していなかったのですが、思っていた以上にすごくいい映画で、ラストは涙が流れてしまいました。永作博美さんの演技が見事なので、「まだ薫はご飯を食べていません、よろしくお願いします」と泣き崩れるシーンで涙が止まりませんでした。

さらに、重々しい物語の中で小池栄子の素人崩れのジャーナリストの登場が実に見事で、しかもやや猫背でひょこひょこと井上真央に絡んでくる演技が抜群で非常に見事なスパイスの役目を果たし、ちょっと物足りない演技の井上真央さんの登場シーンを見事にカバーしてくれる。このあたりのできばえがバランスよかったせいでしょうね、二時間半以上の長い話なのにぜんぜん退屈しないに引き込まれてしまいました。

物語は宣伝でも語っているように、一人の女性が自分の不倫相手の奥さんが産んだ娘を生まれてまもなく誘拐し4歳まで育てる。その娘が大学生になっている現在と、誘拐され、希和子(永作博美)とすごした4年間を交互に描きながら、母親と子供、育てることの意味、そして母の愛情について問いかけてくる物語です。

一見、子供を誘拐した女の物語なのだから、犯人の女は悪者で誘拐された母親は被害者という構図で展開するはずなのですが、犯人の女と誘拐した娘との親子の絆の物語としてどんどんストーリーが進んでいき、そしてその二人の心情に次第にのめりこんでしまうのである。だから、ラストで、警察に捕まるときになってこの二人が実にかわいそうな気持ちになってしまう。

一方の被害者の母親は4歳になってようやく帰ってきた娘が自分になつかないためにやや神経衰弱になってしまっているためにこの母親のほうが憎まれ役のごとく見える。ここがこの作品のポイントで、主題が存在するところであるのかもしれない。

共にすごし、お互いに心が通じ合った女と娘に本当の親子の愛情が生み出されていく。そのあたりを丁寧に描いていくことで育てることと生むことへの問いかけという形でテーマが語られているようである。
一つ一つのエピソードやシーンの組み立て、演出が非常に手抜きの無い真剣な画面作りなので、一歩間違うとただの犯罪映画になるところを見事な愛情ドラマとして生真面目田いい映画として完成していました。

結局、主人公の薫は4歳のころに過ごした小豆島での生活にもう一度戻りたいと泣き叫んで崩れるラストが実に悲しい。大人のエゴが見え隠れしなくも無いのだが、あまりそこへ焦点を置かなかったのが成功の要因だろうと思います。