くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ブラックスワン」

ブラック・スワン

今年のアカデミー賞ノミネート作品の中で一番期待の一本がこの映画でした。大好きなナタリー・ポートマン主演であり、内容もかなりミステリアスだったからです。

期待レベルの作品で安心しました。おもしろかったし、最後まで画面に釘付けにされてしまいました。
ほとんどシーンがキャストのクローズアップで描かれます。出だし部分は手持ちカメラなども多用し、バレエの舞台裏に一気に入り込んでいくイメージで映画が始まる。

不気味なタイトルバック、そしてどこかおどおどした表情で登場する主人公ニナ(ナタリー・ポートマン)。そして娘をかわいがる厳しそうな母。次の演目のオーでしょんのシーンにいきなり入り、主な登場人物の登場、演出家のトム、友人であるがどこか不気味なリリー、全盛期を過ぎて引退間近のスタープリマベス(ウィノナ・ライダー)が紹介され、一気にニナは次の公演の主役の座を得る。

日々の練習と、自らのプレッシャーの中で次第に追いつめられていくニナの姿。友人であるはずのリリーまでも敵に見え、周りの存在がすべて自分に敵意を持っているかに見えてくる。背中に身に覚えのないひっかき傷、突然、爪が割れたり、血がにじんだりするショットが繰り返し移され、ニナの心が次第に狂気に変わっていく様が時にCGによる妄想の映像なども交え描かれていきます。

リリーとの愛欲シーンまでもがニナの妄想であり、母の厳しい指導さえも、どこかニナの妄想により過剰に移されていく。そして、いよいよ本番。寝坊して駆けつけたニナはあわや代役となるリリーを押し退け舞台に。
リリーを鏡に突き飛ばし刺し殺し洗面所へ隠すが、これもまた彼女が追いつめられたプレッシャーによる妄想だと後にわかります。

そして、見せ場が黒鳥に返信するCGシーン。圧倒的な不気味さで演じきったニナには絶賛の拍手が。そして続く白鳥のシーンからクライマックス。
実は鏡の破片が突き刺さったのは自分の体だと気がつきそのまま舞台へ。そしてラスト、身投げして息絶える白鳥の姿と血がにじんでくる腹部、「完璧に演じた」というせりふとともに舞台も現実も一つになって死んでいく彼女のアップでエンド。

クローズアップの多用は、人間の心の葛藤、心理ドラマとして徹底するためにあえてロングで引いた全体シーンを描くことを最小限にしたためだろうと思われます。それゆえに、画面いっぱいに映されるナタリー・ポートマン以下の俳優さんの鬼気迫る視線が直接観客を見据えてくる迫力はすばらしい。ただ、ふっと引いて舞台シーンや練習シーンを映し出したときのバレーシーンがちょっと堅い。当然、本物のバレリーナも入っているのでしょうが、広角のシーンでもクローズアップ同様堅い映像で映されるので全体に緩急のリズムにかけるのが欠点と言えば欠点でしょうか。

母の描いている絵が微妙に動いたり、ニナの背中や足の微妙な変化がCGでさらりと移されたりと小細工に近い演出も多々みられる。ここまで必要だったのかと思えなくもないのですが、この辺最近の映画の陥りやすい欠点だと思います。

でも、全体に見事な一本だったと思います。