くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「名前のない少年 脚のない少女」「歓待」

名前のない少年 脚のない少女

「名前のない少年、脚のない少女」
これをオリジナリティと呼ぶなら、一つの感性で埋め尽くされたシュールな中に宿る甘酸っぱいような青春ストーリーなのだろうと思う。

ベルリン映画祭などでその独特の映像で会場を席巻したブラジル映画を見てきました。まるで8ミリフィルムのような粗い粒子で写される男と女のクローズアップから映画が始まります。そして、時にピンぼけとピント合わせが交互に繰り返される映像で不思議なリズムを生み出し、さらにシャープな映像で語られる現実の世界が夢ともまた記憶の彼方の世界とも区別の付かないストーリーになって私たちに訴えてきます。

一人の青年が主人公。ネットの中に「ミスタータンブリンマン」というハンドルネームでチャットを楽しむ。彼に答えてくるのがE・Fという人物。まぁ、特に気にすることのないこの二人の会話の中に物語の主題が埋め込まれている気がするが、次々とストーリーが続くにつれ覚えていられないのが事実。

ブラジルの小さな村、近くの鉄橋から心中した若い男女ジュリアンとシングル・ジャングル。ところが男性であるジュリアンは生還し村に帰ってくる。女性シングル・ジャングルは死んでしまったが生前の彼女のサイトを偶然主人公の少年は見つけてしまう。
なぜ死んだのだろう?などと友人ジエゴと語り合う主人公の姿や彼の周りの継母、などの登場にも特に劇的な物語はない。

友人の母親が同じ鉄橋から身投げして自殺。その母親の娘に気のあったジエゴが主人公に相談をする下りもあるがそれ以上の進展もない。
時々「ミスタータンブリンマン」という歌詞の歌が流れる。

やがて村祭りである6月の祭りがちかづく。そしてE・Fからボブ・ディランのコンサートにこないかと主人公が誘われる。しかし、それも話題の一つである。

時々、ネットで見つけた少女シングル・ジャングルの姿に魅了される主人公の姿を通じ、思春期から青春期への微妙な彼の繊細な姿も描かれ、不思議な甘酸っぱさが漂うのが実に新鮮である。そして、繰り返されるピンぼけとシャープな映像、粗い粒子の画面との交互のリズム感は一種独特の洗練された若々しさがにじみ出てくる魅力もあるのです。

そして、一人生還した男性ジュリアンと6月の祭りの夜にドライブをする主人公。不気味な夜の鉄橋を渡りショットが実にドキドキする感動を呼び起こしますが、結局、それ以上のものはなく遙か向こうへ歩いて去っていく主人公の姿がピンぼけして完全に形をなくすところで映画は終わります。

正直、退屈な展開でもあるし、眠くもありましたが、独創性にあふれた画面づくりのおもしろさに最後までつき合えた作品だった気がします。

「歓待」
東京フィルメックス、ある視点部門で作品賞を受賞した深田晃司監督の話題作。
一見、風刺劇であるが何とも不思議な、そして一気に駆けめぐってラストを迎えるあっという間のひとときを体験できる映画でした。

ある町の印刷屋さん、前妻に逃げられた幹夫は娘のような若い後妻夏希と前妻の子エリコと暮らしている。飼っていたインコをさがすためにポスターを貼りに行くところから映画が始まる。と、突然そのポスターをはがして幹夫のところにやってくる加川というおっさん。どうやら幹夫の父の知り合いの息子であるらしいが怪しいものである。そして、そのままその印刷工場で働くことになる。あれよあれよと展開する物語に、深田監督の素人っぽい演出や素人くさい演技の俳優陣が目に付いていたこともいつの間にか忘れてしまうのです。

そして、この加川、妻と称する外人を連れ込み、持ち前のずるがしこさで夏希が工場の金をごまかし腹違いの兄に金を渡していることを突き止めたり、外人の妻と幹夫をうまく取り持って不倫させたりして工場の家族の弱みを握るという狡猾さ。そして次々と外国人を引き入れてどんどん工場を牛耳っていく。

やがて夏希の誕生日の夜、外人たちとみんなで大騒ぎして誕生会を開催。よく第三国の映画など見るとお祝い事のパーティなどでめいめい歌ったり踊ったりして騒ぐシーンがあるが、それと同様に大騒ぎ。ところが近所の主婦に警察に通報され、彼らは不法入国であると逮捕されかかる。ところが、すんでの所でちりぢりに逃げてしまう。

翌朝、嵐の後のようになった部屋で片づけを始める夏希と幹夫。なんとも一気に嵐が過ぎ去ったかのような物語が一気に終わるというある意味楽しいような、どこか毒のある風刺が効いたような一本でした。ラストで、近所の主婦が悪口を言っているのに対し、幹夫が「友だちの悪口を言わないで」と加川たちを擁護する一言が印象的でした。

どこか、冷たくなっている日本の社会を不倫や離婚、近所づきあいのぎくしゃくでさりげなく描きながら不法入国の外人たちとどんちゃん騒ぎをする中にどこかアットホームなあたたかさがあって返って皮肉に見えるラストがユニークな映画でしたね。