くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「バンド・ワゴン」「戦火のナージャ」

バンド・ワゴン

「バンド・ワゴン」
ライザ・ミネリの父で名監督ヴィンセント・ミネリの名作ミュージカルである。「ザッツ・エンターテインメント」のテーマ曲にもなっているミュージカルナンバーが心地よい古きよきハリウッド黄金期の息吹を感じさせてくれる作品でした。

なんといっても、ユーモア満点のせりふの数々、さらに絶妙の職人技のようなせりふのやりとりの間のおもしろさ、そして当然、フレッド・アステアの点愛的な身のこなしとダンス、さらに歌声が最大の見せ場だろうと思います。

物語はたわいのないもので、いまや落ちぶれた往年の大スタートニー・ハンター(フレッド・アステア)が新しい舞台に呼ばれて起死回生をはかるべくニューヨークにやってくるところから始まります。ところがその舞台の演出はミュージカルのおもしろさを知らない堅物演出家で、できあがった舞台は大失敗。

落ち込んだ作曲家たちと新たに作りなおしたミュージカル「バンド・ワゴン」をひっさげ地方巡業の末、ニューヨークで大成功をするというお話。

最初はほとんどワンシーンワンカット長回しのせりふの応酬に疲れ気味だったがいつの間にか引き込まれていく展開はまさに演出の手腕のたまものといわざるを得ない。

そして、クライマックス、劇中劇で演じられるガール・ハント・バレーのシーンの舞台映像が目を見張るほどに見事で、下から見上げる背後からとらえるなど縦横無尽にカメラがとらえていく様はさすがに舞台演出も手がけるヴィンセント・ミネリならではのすばらしい演出である。もうすっかり魅了されて、当然舞台は大成功して、あっけなくエンディングなのだが、「THE END」がでたあとのスターたちの笑顔がいつまでも印象に残る作品でした。これぞ黄金時代のミュージカルでしょうね。

戦火のナージャ
ニキータ・ミハルコフ監督が描く戦争スペクタクルで、名作「太陽に灼かれて」の続編。前作を見ていないのでちょっと最初はとまどいますが、非常にスペクタクルな様々なエピソードが展開し、そこにストレートに訴えてくる戦争の愚かさが、くどいほどに映し出されていきます。それは、自国ソビエトのみならず、敵国ドイツの軍人たちのばかばかしいほどの行動をあざ笑うような描写にまざまざと描かれるのです。


映画が始まるとオーバーレイのまぶしいような画面に、一人の男がパンにバターとジャムを塗ってうまそうに食べようとしている。周りにまとわりつく側近たちがプレゼントとしてその男の顔を描いたケーキを持ってくる。どうやらこの男はスターリンであるらしい。

うまそうにケーキを切ろうとするスターリン、ところが突然背後の男がスターリンの頭をケーキに押さえつける。苦しそうにもがくスターリン
と、画面が変わって悪夢に目覚める一人の男コトフ。どうやら夢であったようだが、痛烈なファーストシーンに唖然としてしまう。そして、冒頭のショットにさりげなく移る蝶々が象徴的でもある。

この男コトフは思想犯でとらえられているようだが、突然、容疑が変わって、強制労働に行かなくてすむようになった場面が写され、その直後、突然、ドイツが宣戦布告してきたとアナウンスされる。とたんにドイツの戦闘機がおそってきて、あわやというところでコトフとその友人が逃げ出す。

一気にどーんとタイトルがでるあたりなどかなりぶつけたような映像が繰り返されることに気がつく。

物語は1943年から一人の男がかつての英雄コトヴァの消息を調べる形で1941年のコトフの行動、そしてその娘であるナージャの物語が語られる。

一方のナージャは少年少女隊として従軍し、赤十字の船で傷病兵たちと逃れている途中、ふざけたドイツの爆撃機3機に攻撃され、船は沈められるが、すんでのところで機雷に神父とともにつかまり、命を助かる。ようやく流れ着いた陸地で機雷に別れを告げると流れていく機雷が重要文書を積み、途中でナージャを助けなかった船に流れていって爆破するあたり、ユーモアと風刺もぴりりと効いている。

また、前後するが、橋を渡って逃げる民衆、橋を爆破命令を受けている赤軍の兵士、合図の赤旗をみあやまり、予定前に爆破してしまうなどのふざけた場面もある。

そのほか、皮肉にまみれたプロットが、ふんだんにでてくるのがこの作品の特徴でもある。しかも、ほっとしたとたんドカンと爆発したり、ショッキングな展開と平坦とした展開が交互にぶつけ合うように描かれたりと、戦争のばかばかしさを徹底的に皮肉っている様がまざまざと見え隠れする。

しかも、映像が実に美しい。雪にはらはらとふるショットや、迫ってくる戦闘機さえもとらえ方が芸術的でもある。赤十字の船が沈められ、大勢が海に投げ出された姿を飛行機からとらえたショットで、赤十字の旗が波間にきれいに流れている様など意図的といわざるを得ません。くっきり見える赤十字の旗があるにも関わらず執拗に皆殺しにしてくる戦闘機の姿は残酷でもあるし、ばかばかしくもある。

一人になると「パパ!」と叫ぶナージャ、一方「ナージャ!」と叫ぶコトフ。対比されるそれぞれのエピソードに何のつながりもないために、ストーリーの行く末が見えてこないのが、難解といえば難解かもしれない。

ラストで、瀕死の重傷のまだあどけない19歳の兵士の傷の手当てをしているとき、その兵士がナージャに「まだみたことがないから胸を見せてほしい」と懇願され、ゆっくりと上半身を露わにするナージャ。カメラがぐんぐんと引いていき空中からとらえると、周りは戦禍の跡。そのショットで「戦火のナージャ完結」とロゴがでて映画は終わる。

映像演出のすばらしさはさすがにニキータ・ミハルコフ、ため息がでるほどに美しいし、モンタージュして生み出していく緊迫感は、うならせられるほどにスペクタクルである。徹底的に戦争をあざ笑い、こけ落とし、それでいてしっかりと訴えかけてくるテーマは逃していない。悲惨さととげのある風刺があたかも自国ソビエトさえもこけおろしているかに見えるからゾクゾクしてしまいます。すばらしい映画でした。