くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「マイ・バック・ページ」

マイバックページ

1969年東大安田講堂が陥落したという報道のナレーション音声で映画が始まる。ただ、まだ正式な画面はスタートしない。
そして画面が映ると陥落後の安田講堂へ入って、壁に書かれた学生たちのスローガンなどを食い入るように読む一人の青年記者沢田(妻夫木聡)の姿が映され、タイトルバックとなる。
原作はキネマ旬報の映画評論などでおなじみの川本三郎さんの自伝的小説である。

私は学生運動をリアルタイムで経験した年代ではない。というかまだ小学生だったのでテレビで見ていたのかどうか定かでないし、何のことかもわからなかった時代の世代なのである。しかし、当時、若者たちはベトナム戦争に反対し、安保闘争をし、そして国家を覆そうと真剣に模索していたことはなんとなくリアルタイムに感じていたのかもしれません。もちろん、今となってはそんなことが正しかったのかは疑問ですが、当時はある意味学生たちの一つの目標として間違いのない活動だったのだと思います。

そんな時代を見事に画面に再現し、一つ一つ丁寧に紡いでいく演出でこの作品はしっかりと胸に当時の若者たちの揺れ動く心の内を伝えてくれました。それが正しいかどうかは別として。
そして、ラストのエピローグで酒屋に入って昔懐かしい知人に会い、そして、かつての自分(沢田)を思い出して号涙する姿にいつの間にか共感し胸が熱くなりました。

主人公沢田は先輩の中平と当時の学生運動家たちの姿を記事にすべく走り回っていました。そんなある日一人の若者梅山(片桐)が彼らに接触してくる。彼はまもなく武装蜂起し武力闘争による革命を計画している胸を沢田たちに離します。
この梅山、実は安田講堂の陥落に感銘し、自ら何かを行動すべきと考え、セクトを立ち上げて無我夢中で活動家を演じようとしていたのである。学生運動に水かrなお理想と目的を見いだしているかに見せ、熱い言葉で同士に語りかけるも、どこか自分勝手でご都合主義に解釈して甘えている台詞が見え隠れし、揺れ動いていた当時の学生たちの心境を見事に演じている松山ケンイチの演技が見事である。

理屈ばかりでなかなか踏ん切らない梅山に詰め寄る数人の同士たち。沢田を通じてマスコミに自らの売り込みも行った梅山は次第に追いつめられ、浅はかながら次第に計画を実行に移すべく進めていく。そんな彼を先輩に注意されながらも接近していく沢田の姿もどこか梅山と共通する部分があって非常に微妙なムードが見事に描かれている。

そして、事件が起こる。自分では行動に移せない弱さを隠して、同士に自衛隊へ侵入させ、武器略奪の行動を起こさせるが、はずみで一人の自衛官を殺害してしまう。
しかし、それも計画のうちと理屈でごまかし、沢田にスクープとして暴露するが、警察の手が沢田の新聞社に迫り、とうとう沢田が逮捕されるのである。

逮捕後、必死で自らの行動を理屈でごまかしていく、あるいみ卑劣とも言える言動がどこか、当時の若者たちの心の弱さ、どんどん変わっていく社会の変化に揺れる若者たちの姿を代弁しているようで、憎めない姿にどんどん胸がつまされていきました。そして、警察からの追求にも必死で自らの記事を売ろうとしない沢田の態度も決して受け入れられないものでもないというのが二人の演技ゆえか、山下淳弘監督の演出手腕のゆえか非常に共感でき胸が熱くなっていきました。

ラストで彼らのその後が語られ、エピローグで冒頭の酒場のシーンに続くと二時間半あまりの長尺作品の重さもすっ飛ぶほど充実感で映画館を出ました。個人的にはとっても良い映画だった気がします。