くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「穴」

穴

軽いタッチでしかもコミカルにちょこちょこと展開していく見事なサスペンスコメディ。市川崑監督ならではの映像美というより、職人監督としての手腕が発揮された一本でした。

とにかく、始まってからラストシーンまで息をつかせないほどに詰め込まれた楽しい展開の繰り返しにほとんどだれることなく見終わってしまうのです。主演の京マチ子がずば抜けてひょうきんで、周りを固める山村聡船越英二ら重鎮と呼べるほどの男優たちがこけにされる姿が小気味よいほどにテンポよいタッチであしらわれていく。しかも、二転三転するストーリー展開が秀逸。リアリティに欠ける設定や物語りも吹っ飛んでしまうほどの迫力に圧倒されるのです。

映画が始まると一人のマンガチックな顔立ちの猿丸刑事がぼやいている。どうやら週刊誌に自分をモデルにし、刑事をこけ落とした記事が載っているということで怒り心頭なのだ。
そして、この刑事が週刊誌の会社に怒鳴り込み、記事を書いた北(京マチ子)が首、記事の元ネタを提供した平刑事鳥飼も首になる。この鳥飼、その後、しがない私立探偵になって中盤から再び登場するあたりの脚本のおもしろさも見所です。

さて、一方ここに銀行員が三人。銀行の金を横領しようと画策している。支店長白州は山村聡、そして支店長代理千木に船越英二、そして出納係六井。

金に困った北はおもしろい企画がないかと考え、自分が一ヶ月失踪し、一ヶ月間見つからなかったら50万円もらうというネタをしがない出版社に提案、その企画がスタート。

一方、その記事を見た悪者銀行員三人がこの企画を利用して、偽の北を作りだし、本物が失踪している間に金を横領、戻ってきたところで本物にぬれぎぬを着せる計画を思いつく。

と、出だしがこういう風に始まる。
二つの話でお膳立てして、一本にまとめて一気に本編へいく構成の澪とな雇尾である。

そして、時間は一度に29日たち、戻ってきた北はどこかおかしいことに気がつき、自分が利用されたことに気がついて、逆に悪者銀行員を罠にかけてやろうと画策するのが物語の本筋になります。

ちょこちょこと走り回りながら、一つ一つ証拠を集めては、反撃しようとしていく京マチ子の姿が最高にコミカルでコケティッシュ。そして、とうとうその証拠と隠した金を見つけたと思ったら、そこにあったのはただの穴のあいた新聞紙。それでもめげずに次の罠を考えて真犯人に迫っていく京マチ子がまたおもしろい。
六井が殺され、北にぬれぎぬが、さらに北の身代わりの女も殺され、犯人は白州と踏んだ北は白州のところへ、ところが白州は千木に殺される。危機一髪で京マチ子は最後の賭に出る。

そしてとうとう警察署に真犯人の最後の一人千木を追い込むことに成功、いよいよ逮捕というときに彼は窓を破って飛び降り自殺する。窓には彼の通り抜けた穴が。それをバックに北と鳥飼がよりそって、穴をバックに「完」となる。

思わず、あはは!と笑い飛ばしたくなる小気味良いエンディングです。
さりげない中にそれとなく画面にこだわりを持たせる市川崑の映像演出も所々に見られ、ハイテンポに展開する物語の軽やかさが最高に楽しめる一本でした。京マチ子の機関銃のよなせりふと謎解きし次々と計画していく様も見事に聞き取れるのはさすがに、今の女優さんとは活舌訓練が違いますね。