くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「木洩れ日の家で」「テンペスト」

木漏れ日の家で

「木洩れ日の家で」
モノクロームの映像詩のような画面が淡々と描かれる美しい一遍。想像はしていたが想像通りの作品でした。

一人の老婦人が女医を訪ねる下りから映画が始まります。女医の「服を脱いで横になって」という無遠慮な言いぐさに腹を立てて、婦人は外にでる。久しぶりにやってきた都会は車の波で、次々と婦人を横切って、というか画面を横切って車が右に左に駆け抜けていく。

暗転して、一見のこんもりとした森にたたずまいする家の門をくぐる婦人の姿。どうやらここで彼女は一人で暮らしているらしい。そして、ラストシーンでわかるが、彼女の命はまもなく消えようとしていて、その兆候で医師を訪ねたらしいことがわかる。

この婦人はここでフィラという一匹の犬と慎ましやかに暮らしている。隣には音楽スクールがあり、子供たちの声がひっきりなしに漏れてくる。
婦人の息子はことあるごとにこの家を手放してしまう段取りをつけようとする。すでにほとんどの家具を持ち出し、わずかに生活に必要なものとピアノだけ。

ガラス越しに二重三重に重なる映像や、柔らかな画面とシャープな森のショット、じっと見つめる婦人の毅然とした画面、ひたすら婦人にまとわりついてことあるごとに婦人をいたわる忠犬の演技がまたいとおしい。

物語というほどの劇的な展開もなく、淡々と進む婦人と一匹の犬の物語は退屈ではある物の、いやされるほどに画面がすっきりと美しいのはまるで読みなれない叙情詩を必死で読んでいる気分にさせられる。

やがて、隣の音楽スクールに出向き、すべてをそこへ寄贈する決心をする婦人。ピアノの下に隠していた彼女のなけなしの宝石がよごれた缶箱に入れられでてくる。

そして、音楽スクールの様々な楽器が運び入れられ騒がしい子供たちの声が家中に響き、一人の少女が二階の婦人に紅茶を届けようとしたら、すでに婦人はいすにもたれて息を引き取っている。それまでことあるごとに鳴いていたフィラは静かに婦人の姿を見守っている。
カメラはゆっくりとパンアウトしどんどん俯瞰で屋敷をとらえながら遠ざかっていく。

何ともいえない美しいラストシーン。まさに芸術的な一本でした。小品ながら秀作と呼べる作品だったと思います。

テンペスト
特殊撮影をふんだんに使ってシェークスピアの不思議な物語を映像化した一品、みて損のない映画でした。

映画が始まると、海の一点に竜巻のような嵐が巻き起こっている、画面が一気に一人の女の顔のアップへ。大胆なカメラワークで一気に引き込む見事な導入部です。
どうやらこの女プロスペロが嵐を呼び起こし船を沈めようとしている。そして、一瞬で船は海の藻屑へ。しかし、プロスペロの魔法は乗組員たちはすべて彼女のいる島へ上陸させるように仕組まれている。

最愛の娘ミランダのよき許嫁を巡り合わせ、自分をミラノ公国から追い出した張本人を改心させるのがその目的。
空を舞う妖精エリアルや土の奴隷などを利用し、プロスペロの本という魔法の本を駆使して彼らを操り、一つ一つ目的を達成していく。

美しい特撮画面で現実とも幻想とも呼べない魔術を描き出し、夢幻のごとく翻弄される船の乗組員たちは次第にプロスペロの画策通り、彼女の前にひれ伏すことになる。そして、すべての目的が達せられた後、妖精を自由にし、自らミラノ公国へ赴き、は術の杖は海に捨てるエンディングまで、それぞれのプロットの組立が実にリズム感抜群で、重苦しくなりそうなシェークスピア戯曲が映像となってファンタジックに再現されたという感じに仕上がっている。

最初から最後まで特に特撮に引き込まれたわけでもなく飽きずにみれたのは原作のおもしろさもあるが、脚本化の成功もあると思います。みて損のない一本であったでっしょうか?
ただ、シェークスピア劇としての格調を無視したのはちょっと残念かもしれません。