くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「奇跡」

奇跡

是枝裕和監督作品でなければ見るジャンルではない。だからほとんど期待していなかったのですが、意外とふつうに良い映画だった気がします。ラストシーンを生かすためにちりばめられた伏線の数々がちゃんとクライマックス、すれ違う新幹線を見ながら子供たちが思い出す様々な出来事に生きてくるのがなかなか見応えありです。

両親の仲違いのために兄弟別々にすむことになった主人公たち。兄はことあるごとにもう一度4人で暮らしたいと願って、なかなか今の生活に完全にとけ込もうとしない。いつまでも桜島の灰が降ることに文句ばかり言って、必要以上に掃除をする姿に彼の心境を描写してみせる。

一方の弟は今の生活に半ばあきらめムードで入り込んだが、周りに友達を作ったりとそれなりに適応してしまう。

夫婦喧嘩の際に、弟は素早く逃げるが、兄はおどおどして何とか仲裁しようとする姿に二人の性格の違いを見事に表現している。

子供たちのシーンはどちらかというと演技をつけずにカメラを向けて半ば自由に演技させ、周辺の大人のショットはしっかりと据えて丁寧な演技演出を施している。その緩急が見事なリアリティを生んだのが心地良い映像になった理由ではないかと思います。

クライマックスでそれぞれが願いを叫びますが、兄はなにも希望せず、弟は父の成功を望むことで、結局、四人で暮らすというありきたりなハッピーエンドにしなかったのは悪くいえば是枝監督のささやかな毒でもあり、そうすることでかえって四人の絆が深まるごとく演出した結果かもしれません。

さりげなく大人は子供を応援し、子供はしっかりと大人の行動に答えている。地味な作品ではありますが、是枝監督の力量を見せつけるさりげない良い映画だった気がします