くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「引き裂かれた女」

引き裂かれた女

クロード・シャブロル監督晩年の傑作とされながら未公開だった一本である。まさにスタイリッシュサスペンスと呼ぶべきすばらしい一本でした。

一見、倒錯した愛の行方を扱ったラブサスペンスのごとき物語ですが、見ているうちに何ともいえないしゃれた映像センスに引き込まれてしまいます。その原因がどこにあるのかさえつかみ所のない不思議な陶酔感さえ漂う映画のリズムが漂うこの一遍はまさに映像の傑作と呼べる一本だったという証拠かもしれません。

物語を追ってみましょう。映画が始まると真っ赤なフィルターをかけた映像でハイウェイを走る車の視線でカメラが映像をとらえる。車を運転するのはカプシーヌという女性。彼女はとある邸宅にやってくる。その邸宅は地位も富もある成功した人気作家シャルル・サン・ドニの家だった。
書店でのサイン会を企画した彼女がシャルルの家にやってくるのだが、シャルルは書店で一人のお天気人気キャスターガブリエルと出会う。そしてガブリエルは30歳近く年が離れているにも関わらず大人の魅力のあるシャルルに一目惚れしてしまうのだ。

一方金持ちの御曹司ポールもまたガブリエルに曳かれてつきまとっている。

こうして物語り始まるが、みるみるシャルルにのめり込んでいくガブリエルの姿が実にセクシーなのである。やや小娘のごときキュートさを持ったガブリエルは大人のテクニックのごとき妖艶な愛を与えるシャルルの姿に次第に性に目覚めていくかのごとき艶ややかなシーンが続く。しかし、果たして具体的にどのような営みかはすべて暗転という手法で私たちに見せられることはない。この見え隠れするシーン展開が実に巧妙なのです。

そして、シャルルにいかがわしいクラブにもつれていかれるガブリエル。階段の上に存在する意味深な部屋の存在も結局暗転して不明で終わる。あとでガブリエルがポールにまるで複数の男性とSEXしたかのように説明しますが、それも真実か、腹いせか結局わかりません。

しかし、シャルルが海外へ行くとなぜかシャルルの隠れ家にガブリエルが入れないようにカギが変わっている。捨てられたと思ったガブリエルはやけくそでポールと結婚。そこへ帰ってくるシャルル。しかし、嫉妬に狂ったポールはシャルルを銃で撃ってしまう。

そして、ポールは牢獄へ、一人になったガブリエルはポールの母の冷たい仕打ちもあり、孤独になる。
ラスト、叔父のところへやってきたガブリエルはとある部屋に案内される。ドアを開けるとシーンが変わって、舞台。体を鋸でまっぷたつにされるマジックショーが開かれていて、その切り裂かれる女性にガブリエルが登場する。そしてのこぎりで切られ、無事に観客の前で笑うところで映画が終わる。

はたして、シャルルが案内した怪しい二階とはこの舞台だったのか?何もかもが謎に終わるエンディングはシュールではあるが何とも見事なジャンプカットである。
物語の組み立ての面白さ、映像としてのリズムのうまさ、登場人物の描き方の秀逸さ、そして画面のさりげない品の良さと美しさ。何もかも完璧とは言わないまでも、全く飽きさせることなくラストシーンまで見せきったクロード・シャブロル監督の秀でた演出に拍手したい一本でした。素晴らしい。