くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「人斬り」

人斬り

二時間を超える大作時代劇である。監督は徹底した様式美でこれぞ時代劇と呼ばせる名匠五社英雄監督、私の大好きな監督の一人である。物語は土佐藩士で幕末人斬り以蔵と呼ばれた岡田以蔵の半生を描いている。

仲代達矢扮する武市に飼い犬のごとく使われ、いわれるままに人を殺していく以蔵。考え方に心酔するあまり何の疑いもなくがむしゃらに人を殺めていく以蔵の鬼気迫る姿を描く前半部分、そして、その行き過ぎた言動に危険を感じ疎ましく思われていく中盤部分、そして自らの目的のために家来ともおもわず武市に利用され、坂本竜馬の言葉に次第に自らの生き方に迷いを生じ始める終盤から、最後には裏切られ、自分の生き方に目覚めてすべてを白状し死んでいくエンディングまで勝新太郎による骨太な以蔵の姿が見事に描かれていきます。

血を思わせるような真っ赤な花のタイトルバックから、時に刀に滴る血の滴が流れたり、真正面にとらえた武家屋敷の形式ばったショット、以蔵が真横に切り抜いた背景にある格子戸が過多なの動きに沿ってさっと横一文字に裂けていったり、さらには徹底的に形式的に流れるように描かれる殺戮シーンの美学など五社英雄の徹底的にこだわった時代劇演出がさえ渡ります。

五社英雄作品にしてはやや無骨すぎる勝新太郎の存在感ですがすっきりと引き立てる仲代達矢らのスマートな存在がかえってお互いに引き立て合い、さらに岡田以蔵同様、当時人斬りとしておそれられた薩摩の田中新兵衛役に三島由紀夫を配置した個性的な配役が実に作品に深みとご落成を生み出しています。その上坂本竜馬石原裕次郎とくればもうこれは娯楽時代劇以外の何物でもないですね。

長尺な作品ながらいったん引き込まれたら最後まで決してだれることがなく、次々と展開する主人公の生きざま、ドラマ性のおもしろさに引きつけられていきます。
時に以蔵のあこがれで恋する女性や入り浸る女郎との恋仲などもさりげなくラストシーンあたりに生かしていくなど、最近の映画にはない余裕が感じられる脚本がすばらしいです。

テレビ的といえなくもない画面づくりですが、スクリーンでこそ引き立つ映像美の世界であることも確か。本当に楽しませてくれる一本でした。