「悪の華」
クロード・シャブロル監督作品である。
第二次大戦下から脈々とうけつがれる名門一族、今その一族の一人の女性アンヌが来る市長選に出馬しようとしている。
アメリカから帰ってくるフランソワ、アンヌの義妹で恋人であるミシェルが出迎える。さらに一族の過去を知るミシュリーヌ叔母さんがストーリーの展開にキーパーソンの役割を担い、この一族の過去がことあるごとにひもとかれていくという趣向である。時に過去のミシュリーヌの姿をフラッシュバックさせる凝った演出が実に見事。
映画が始まるとカメラが一軒の家に入っていき階段を上って二階へ。そこのベッドの脇に死んでいる一人の男のショットでタイトルとなる。
アンヌの選挙運動の期間を区切りにストーリーが語られ、そして、投票日、すべてのどろどろした一族の過去が明らかになったところでミシェルに言い寄る義理の父親。そして誤って彼を殺してしまったミシェルはミシュリーヌとその死体を二階へ運ぶ。そして犯人はミシュリーヌとして、すべての復讐だとほくそ笑むミシュリーヌのショットが光る。
そこへ当選して帰ってくるアンヌたち。一階ではパーティが始まり、二階にある死体を知らずに、カメラは階段をとらえるショットで終わる。
冒頭の死体はこのラストシーンの死体なのである。
あっと思わせる展開と次々と明らかになる複雑きわまりない一族の人間関係、愛憎関係。フランソワの母といい仲だったミシェルの父の姿や、ミシュリーヌが愛した兄の存在、その兄を殺した父への憎悪、なにもかもが絡み合うように過ごしてきた汚れた一族のさらに続く栄光と汚れたこれからが見事に映像として完成されています。
殺人シーンとラストショット、階段へ引き上げるときにずり落ちていて思わず笑い転げるミシェルとミシュリーヌのショットもこれぞフランス流ヒッチコック。
映像はかなり格調高くしんどいと思えなくもありませんが、スリリングさとミステリアスな複雑なストーリー展開にうならせる一本でした。
「最後の賭け」
初老のヴィクトールと娘ベティの二人の詐欺師の何とも心温まるコミカルなサスペンス劇である。
出だし、ルーレットが回るショットから始まる。テーブルに美しいベティと一人の男。ルーレットに飽きた二人はバーで一杯。男が席を立った瞬間に男のグラスに睡眠薬を入れるベティ。その様子をカウンターからじっと見るヴィクトール。
こうやって、男をひっかけてはベッドイン直前で眠らせて金を取るという細かな詐欺を繰り返しているのである。。
そんなある日、ベティが休暇がほしいという。10ヶの休暇の後約束の土地で会うべく出かけたヴィクトールは死多士王に男と歩いているベティと出会う。聞けば、この男モーリスはマフィアの金の運搬係で、今回の運搬する金を猫ばばしようともくろんでいるらしく、その金をだまし取るべく1年かけて彼に近づいたのだとうち明けた。
こうして、ベティの言うことが正しいのか疑いながらも綿密な計画を立て始めるヴィクトール。果たして、真相はどこにあるのか、だましだまされるがごとく金が動く中、まんまとヴィクトールの手にモーリスの金が移る。しかし、まだどこか不安で、ベティを信じ切れない。その上、あわててモーリスも取り返しに来ないのが又不安で、ヴィクトールとベティは逃げる算段をする。そこへ、組織の追っ手がやってきてとうとう捕まるのだが、相手のボスとヴィクトールのやりとりがやたらくどい。だらだらとやりとりが絶え間なく続くのはちょっとしんどい。最初は心理戦のおもしろさかと見ていたのですが、いつまで続くかと思った末に、簡単に結末を迎え、無事解放されるヴィクトールとベティ。
あれ?あれ?と思っていると、結局、金の半分は抜き取っていたヴィクトール。それに気が付かない組織のボスものんきであるが、この詰めの甘さがこの後のエピローグの甘さに続くのがこの映画の弱点でしょうか。
結局、二人は別れ数年の後再び再会して、また仕事を始めてハッピーエンドなのですが、どうにもまとまりが足りませんね。
前半のわくわくするスリリングな騙し合いのおもしろさが中盤から後半のだれた展開で吹っ飛んでしまって、ラストシーンとは、ある意味何とも言えないムードの作品でした。