「がめつい奴」
大阪は釜ヶ崎を舞台にした人情ドラマであるが、これといって派手な物語は展開しないまでも、バイタリティあふれる人々のその日暮らしの生活が、こてこての大阪魂まるだしで描かれる様は痛快と言っていい。
それに、様々な人々の群像劇であるが、何ともそれぞれほほえましいのである。その全く暗さの見せない展開が心地よいほどにそのまんまの人間の感情を私たちに伝えてくれる。
今となっては、決して作られることのない作品であるものの、主役級の俳優からほんのワンシーンでてくるだけのキャストに至るまで、蒼々たる演技人というのはまさに、当時の日本映画のそこの深さをまざまざと見せつけてくれる。
ネオンと薄汚れたほこりっぽさと、そしてぎらぎらしたストレートな人々の心のドラマはこれこそが本当に人間の姿であるとまざまざと見せつけてくれます。
これといって優れたショットや画面演出などがみられる訳ではないのですが、どこかしら映画を感じさせてくれる演出はさすがにすばらしい。
名作の中に埋もれるこうした作品の大切さを感じさせてくれる一本でした。
「大阪の宿」
五所平之助監督が描いた秀作の一本。
主人公の三田が東京から大阪の支社へ左遷されてくるところから映画が始まる。
飲み屋で大阪での下宿先を探していたところ土佐堀川側にある旅館酔月を紹介され、そこで逗留することになる。
そこで様々な人と出会い、様々な出来事に関わりながら、再び東京の本社へ去っていくまでを描いている。
非常に人間ドラマとして卓越した演出が施され、さりげないショットに監督の手腕がさえる一本で、特に新地の芸者”うわばみ”を演じた乙羽信子が抜群にすばらしい。
導入部分の軽快さから中盤から後半にかけて、当時の庶民の世相を映し出す社会的なシリアスな物語にストーリーが変遷していく様が実に見事で、まだまだ貧しかった日本の庶民の姿が息詰まるような展開で次々と語られていく。
前述したようにさりげないせりふやほんの些細な画面演出が抜群の効果を生み出す上に、まだまだ不安が漂う人々の様子がモノクロームの画面からにじみ出てくる。
手前と奥の人物の交錯、川沿いで会話をする二人の人物の前に自然と入ってくる船などなど、単純な画面づくりではないところにこの作品の奥の深さを感じさせてくれるのです。
大傑作とまではいかないまでも、かなりの秀作であり、心に残る一遍だったように思います。
「潤の街ユンの街」
大阪生野区の鶴橋界隈を舞台に、在日朝鮮人の潤子と日本人の青年雄司との切ないラブストーリー。
潤子を演じた姜美帆があどけないほどに愛らしいのが印象的な作品でした。
映画が始まると猫を抱いた一人の少女が男の子たちに追いかけられ取り囲まれる。そして男の子が出したナイフのショット、血の滴るショットまでモノクローム。そして画面がカラーに変わって本編になる。
シュールな演出かと思われたが、映像は至って平凡。時折夢の中のシーンなどにイメージ映像のような画面が取り入れられているが、基本的には素直な演出でストレートなラブストーリーがつづられていく。
とは言うものの、さりげなく朝鮮人差別が挿入されたり、過去の日本人の仕打ちに対する避難が見え隠れするのはまぁ、この手の作品では常套の展開である。
特に秀でた作品とは思えないのですが、非常に素朴なストーリー展開が好感で、主演の姜美帆の笑顔がどのショットでも救いの役割を果たしてくれます。
結局、クライマックス雄司も潤子に「朝鮮人に帰化してみる?」と言われて二の足を踏む。これが結局本心ではあるのですが、それは朝鮮人への差別と言うより、それぞれが自分の国の人間であることへの誇りを捨てられないと言う意味だと思います。
個人的に好きなテーマではありませんが、良質の映画だったと思います。