くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「うさぎドロップ」「ハンナ」

うさぎドロップ

うさぎドロップ
宇仁田ゆみのコミックを原作にしたたわいのない映画であるが、監督のSABUという人、結構好きなのである。
この監督、非常に映像感覚といい、ストーリーテリングの感性といい、音楽センスといい非常にバランスがとれているからなのです。

この作品でも、平凡な子育て奮闘記なのですが、ありきたりの展開を極力抑え、単純な芦田愛菜松山ケンイチの映画という売りだけの作品に仕上げきらないところが非常に好感なのです。

とはいっても、特にどこが優れていてどこがすばらしいというような評価を下すような映画ではありません。でも、最初から最後まで飽きることなく楽しめるのです。だからいい。エンディングの曲の選定も違和感なく楽しい。それでいいのかなという映画でした。

おじいちゃんが死んだということで実家に帰ってきた主人公のダイキチ(松山ケンイチ)はそこでおじいちゃんの隠し子でなんとまだ6歳のリン(芦田愛菜)に出会う。みんなやっかいに思う中で勢いで引き取ることになったダイキチはまだ独身。こうして大奮闘が始まる。まぁ、よくある展開である。

今大人気の芦田愛菜ちゃんの愛くるしいショットをちりばめて最後までいくのかとおもいきやかなり控えめのシーンばかりで、ダイキチの部屋がみるみる幼稚園の部屋のように飾りたてられていく展開が実に自然。あくまで、愛をテーマに客観的に原作を大事にした演出がこの作品を良質の一本に仕上げています。

ラストで、些細な事件が解決しこれからも奮闘記が続きますよと終わるのですが、主人公のダイキチがふと周辺を見渡すと世の中お母さんお父さんだらけで、愛に満ちてるなと安心する独り言が実にさりげなく胸を熱くする。それに続くエンディングテーマがさわやかな一本でした。

「ハンナ」
ビートの利いたハイテンポな音楽に乗せてファンタジーかSFか微妙なバランスの映像で次々と繰り返されるスタイリッシュなアクションシーンがすばらしい。しかも、それぞれの格闘シーンの背景になるのが、幾何学的な空間を逃げながらのモロッコでのCIA内部のシーン、さらにまるでキノコのような赤い煉瓦の柱が立つ地下鉄構内での格闘シーン、そして、電車のトレーラーを迷路のように使ったハイスピードなシーン、車が縦横に走る中でのアクションシーン、クライマックスはなんとすでに閉園となったグリム童話のテーマパークの中でのバトルシーンである。

しかも、それぞれのシーンの画面センスが抜群に見事で、背景に巨大なめがねのポスターをとらえたり、飛行機がごーっという音とともに飛び去ったり、このジョー・ライトという監督の現代アートのようなモダンな感性に拍手してしまいます。

映画が始まると雪深いフィンランドの森。一人の少女が一頭の雄鹿を弓でねらっている。そして一矢。胴体部を撃たれた雄鹿はそのまま氷の張った湖をかけて逃げようとするが力つきて倒れる。そばに寄った少女は「心臓をはずしてしまった」といってピストルでとどめを刺す。そして真っ赤な背景にハンナと書いたタイトルがどーんとでる。ドキッとする導入部である。

死んだ鹿を見つめるハンナの背後に一人の男。そして格闘。この男は父で、父エリックに幼い頃から格闘をたたき込まれ少女ハンナはすでに16歳。すべて教えられたと告げるハンナ。そして、ここをでていくときには居場所を伝えるスイッチを入れろという。父であるエリックはロシア諜報員で、幼い少女ハンナをつれて姿をくらましている。彼の上司がマリッサ。彼女に居場所を伝え、最後の対決をすべき時がきたのだ。

父とベルリンのグリムの家で再会することを約束しエリックは先に旅立つ。まもなくしてマリッサの指示でヘリに乗った諜報員たちがハンナをとらえにくる。
そして、つれていかれたのがモロッコのCIA支部。そこからハンナが脱出する下りが実にみごとである。そして、金属のトンネルのような中をくぐり抜けてでたところは一面の荒涼地帯。そこから、キャンピングカーで旅をする家族に拾われ海を渡ることになる。

前述したように、ハンナを追ってくるマリッサの手下の不気味なこと。どこかホモのようで猟奇的な男や、坊主の手下、さらに凄腕のエージェントなど。そして彼らをモダンアートのような舞台でスピーディーな音楽をバックに格闘し鮮やかに倒していく様は爽快。

一方の父エリックに迫る追っ手もまたスタイリッシュなリズムで鮮やかに危機をくぐり抜けていく。
そして、クライマックス。

それまで、ちらほらと語られてきたハンナの正体、その真相がラストで父エリック(実は育ての父)によって明らかにされる。ハンナは人工的に傭兵部隊を作るために遺伝子操作された赤ん坊の一人だった。ショックを受けながらもどこか父への愛情が芽生え始めるハンナにラストの対決が迫る。

エリックを倒され一人になったハンナはグリム童話のテーマパークでマリッサと一騎打ちとなる。見事に矢で彼女を射止めたハンナ。赤ずきん狼の口から滑り落ちてしまったマリッサに近づき「心臓をはずしてしまった」と冒頭の台詞を繰り返したハンナはとどめの銃を撃ち込んで映画は終わります。

遺伝子操作で作られたハンナの運命や心理面などの描写はあまり描かれていればもう少し奥の深いドラマになっていたかも知れず、やや物足りないものもあるが、ジョー・ライト監督の独特の研ぎ澄まされた映像やリズム感は十分作品に生かされ散るし見ごたえのある秀作だったと思います。