くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「未来を生きる君たちへ」

未来を生きる君たちへ

アカデミー外国語映画賞ゴールデングローブ賞のW受賞をしたスサンネ・ビア監督の話題作である。
繊細すぎるほど感受性に優れた映像が語る、復讐と争いを焦点にした人間ドラマである。

美しい自然の風景から映画は幕を開ける。そこはアフリカの僻地のようである。美しい自然が背景にあるが、アラブ系の人たちが数少ない医師を頼って生活している。

一人の白人医師アントンが地元の医師たちと車の荷台に乗って次の場所へ移動しようとする。その後ろを純粋な瞳を輝かせながら黒人の子供たちが大勢後を追ってくる。そんな彼らにサッカーボールを与えるアントン。

一つの診療場所で一通りの治療を終えた彼のところへ一人の急患がかつぎ込まれる。妊婦の身ごもった子供が男か女かあてる賭をしたビッグマンという地元のならず者たちが女の腹を裂いた耐え瀕死に状態になったのだ。あまりにもむごいビッグマンの仕打ちに対する怒りが爆発するが、まずは治療に専念するアントン。

このビックマンによる非人道的な仕業の結果による悲劇の女性のシーンはこの後も何度かでてきて、しまいにはビックマンが足にけがをしてかつぎ込まれ、最初は治療するものの、反省の色のないビッグマンに対し、診療所から追い出し復讐に燃える地元の男たちの中に放り込んでしまうシーンも展開する。怒りに任せて復讐に踏み切れないアントンの苦悩、現地の人々の怒りの視線が痛烈にアントンに浴びせかけられるシーンは切実なものがある。

画面が変わると一人の少年クリスチャンが父の転勤、さらに母の死によって新しい学校転校してくる。
そして転校の初日、校門のところでいじめられているエリアスと出会う。実はこのエリアスはアントンの息子で、エリアスの両親は離婚の危機に面している。

大人の物語かと思いきやすーっと子供の物語へと展開していくストーリー構成と場面演出が実に見事な導入部である。そして、この映画の主人公はこのクリスチャンとエリアスの二人であると同時にそれぞれの父アントンとクラウスであることが把握されるのである。

クリスチャンはガンで死んだ母の面影と、見殺しにしたと信じる父に対し敵意を抱いている。そんなクリスチャンに必死で接しようとする父クラウスの姿もまた痛々しい。そしてクリスチャンは母親を死なせたと信じる父親に執拗な復讐心をもって接している。

クリスチャンはある日エリアスをいじめている子供をトイレで滅多叩きにし、その上ナイフで脅してそのナイフをほしがったエリアスに与える。急速に二人の仲が深まっていく。そんな中でどこか不気味なほどにクールなクリスチャンのキャラクターが微妙なムードを生み出してきます。

ある日、エリアスの父アントンが帰ってくる。たまたまエリアスの弟がブランコの取り合いで喧嘩になった子供の父親とエリアスの父親が言い争うことになり、粗暴なその男がアントンを殴る。無抵抗に対応するアントンの姿を複雑な思いで見つめるエリアスとクリスチャン。
殴り返さば良いのにと迫る子供たちに復讐は何も生まないと答えるアントン。非常に大人の返答であるがどこかやるせない怒りが見え隠れする。

アントンの押さえた感情を察するかのようにクリスチャンとエリアスがその男の住所を調べたりと応援するが結局アントンも言葉で言い返しにいくだけである。しかし、子供たちの心がわずかながら自分の感情を動かしたことも事実で、この後に挿入される僻地での治療の場面にビッグマンがかつぎ込まれてくるシーンがあり、結局地元の男たちに復讐させる展開にこのアントンの心の変化が読みとれるのである。

悔しいだろうが必死で感情を押さえるアントンの気持ちを察してかクリスチャンはたまたま倉庫で見つけた花火の火薬で爆弾を作りその男に復習しようとエリアスに提案する。最初は抵抗していたエリアスは母とふとしたことで喧嘩をし、ビッグマンのことで疲れきった仕事先の父とも十分な話ができなかった為に勢いでクリスチャンに同意。やがて決行の日、爆弾を仕掛けて隠れていたところ、ジョギングしてくる母親と子供の姿を見かけ、思わず飛び出したエリアスは爆弾で大けがをする。

けがは命に別状のないものだったが、責任を感じたクリスチャンは自殺まで考える。しかし、かけつけたアントンに助けられ、その後クリスチャンの父クラウスに、母親の死の間際に自ら死を臨んだことを告げ二人の確執は溶けていく。
そして、クリスチャンはエリアスの病院を訪ね、二人はまた以前の二人になる。

アントンはもう一度妻と仲直りをしてベッドにはいるシーンの後、再び仕事先で子供たちに追いかけられながら過ごす日々が写る。美しい自然のショットが鮮やかにとらえられて映画は終わります。

一方でアフリカでの僻地の出来事を語り一方で子供たちの毎日を語る。その中に復讐と怒りのテーマをしのばせながら子供の視点、大人の視点を通して美しい自然描写も含めて私たちに問いかけてくる。非常に奥の深いドラマであり、その映像リズムの絶妙な手腕で最後まで見せきるという迫力は映画賞受賞にふさわしいと思える見事な一本です。